杉本 知瑛子(33)~シューベルト「糸を紡ぐグレートヒェン」・・・43号

シューベルト:「糸を紡ぐグレートヒェン」(ゲーテ『ファウスト』より)

杉本知瑛子(H.9、文・美(音楽)卒)

弾き語り演奏(ソプラノ独唱&ピアノ伴奏:杉本知瑛子)・・・公開未定

Gretchen am Spinnrade   Op.2 D 118

曲: シューベルト (Franz Peter Schubert,1797-1828) オーストリア

詩: ゲーテ (Johann Wolfgang von Goethe,1749-1832) ドイツ
Faust Teil 1(ファウスト 第1部 1806) Gretchens Stube(グレートヒェンの部屋) Meine Ruh ist hin

(日本語訳:杉本知瑛子)

Meine Ruh ist hin,
mein Herz ist schwer;
ich finde sie nimmer
und nimmermehr.

・・・私の安らぎは去り、
・・・私の心は重い。
・・・それを私が再び見つけることはない、
・・・もう二度と。

Wo ich ihn nicht hab,
ist mir das Grab,
die ganze Welt
ist mir vergällt.

・・・彼のいないところは、
・・・私には墓場だ。
・・・世界中が
・・・私にはつらい。

Mein armer Kopf
ist mir verrückt,
meiner armer Sinn
ist mir zerstückt.

・・・私の弱い頭は
・・・狂ってしまった、
・・・私の哀れな心は
・・・こなごなに砕けた。

Meine Ruh ist hin,
mein Herz ist schwer,
ich finde sie nimmer
und nimmermehr.

・・・私の安らぎは去り
・・・私の心は重い。
・・・それを私が再び見つけることはない、
・・・もう二度と。

Nach ihm nur schau ich
zum Fenster hinaus,
nach ihm nur geh ich
aus dem Haus.

・・・私はただ彼を
・・・窓の外に見て、
・・・ただ私は彼のあとを追って
・・・家を出る。

Sein hoher Gang,
sein edle Gestalt,
seines Mundes Lächeln,
seiner Augen Gewalt,

・・・彼の気高い歩み、
・・・彼の尊い姿、
・・・彼の口もとの笑み、
・・・彼の目の力、

Und seiner Rede
Zauberfluß,
Sein Händedruck,
und ach! sein Kuß!

・・・そして彼の言葉の
・・・魔法の流れ
・・・彼の握手、
・・・そして、ああ!彼のキス!

Meine Ruh ist hin,
mein Herz ist schwer,
ich finde sie nimmer
und nimmermehr.

・・・私の安らぎは去り、
・・・私の心は重い。
・・・それを私が再び見つけることはない、
・・・もはや二度と。

Mein Busen drängt
sich nach ihm hin,
Ach dürft ich fassen
und halten ihn,

・・・私の胸は
・・・彼のもとへ迫りゆく、
・・・ああ許されることならば
・・・彼をこの手にとらえ、抱きしめて、

Und küssen ihn,
so wie ich wollt,
an seinen Küssen
Vergehen sollt!

・・・そして彼に口づけたい
・・・私ののぞみどおり
・・・彼のキスに
・・・この身が消え失せようとも!

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『ファウスト』のマルガレーテ(愛称グレートヒェン)には、ゲーテが1771年にシュトラスブルク(ストラスブール)で捨てたフリーデリケFriederike Brion (1752-1813) 、1772年フランクルフルト・アム・マインで、不義の子殺人のために公開処刑されることとなったマルガレーテ・ブラントSusanna Margarethe Brandtが投影されていると言われますが、少なくともこの詩には、ゲーテ初恋の人と言われるグレートヒェンが糸を紡ぐ姿も映し出されています。

彼女は1764年、ゲーテが14歳の時に思いを寄せた少女で、『詩と真実』Dichtung und Wahrheit (1808-1831) 第1部に描かれています。

ファウストは、メフィストフェレスの計らいにより、グレートヒェンと庭で甘美な時を過ごしましたが、彼女への愛と罪の意識に苦しみ、森林と洞窟で反省の日々を送っていました。そこへメフィストフェレスがやってきて、グレートヒェンの心情や行動を伝えます。それはこの詩に表れる、彼女の心でした。すなわち、グレートヒェンはファウストに捨てられたと思い、彼が忘れられず、苦しんで失望しています。ファウストは、グレートヒェンの甘い肉体を思い出させるな、と叫びますが、メフィストフェレスにそそのかされ、また愛欲にかられて、グレートヒェンのもとへとやってきます。そんなことを知らないグレートヒェンは、糸を紡ぎながらこの歌を歌います。

続きはゲーテ『ファウスト』第一幕あらすじと共に[Music Gallery]にてどうぞ。

シューベルト:「糸を紡ぐグレートヒェン」(ゲーテ『ファウスト』より)

 

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