G. Puccini:オペラ『トスカ』より「歌に生き愛に生き」

Vissi d’arte, vissi d’amore(歌に生き、愛に生き)《Preghiera:祈り》

 *弾き語り演奏(ソプラノ独唱&ピアノ伴奏・杉本知瑛子)

 ◎《第三回練習演奏公開終了》 次回練習演奏公開予定:2024.03.10

(第2回録音:2023.03.31 録音機種:Rakuten BIG)(第3回録音:2023.05.31:Rakuten BIG)                                                                                                    

「Vissi d’arte, vissi d’amore」

歌詞(Ricordi版使用 伊語:日本語訳・杉本知瑛子)

《Preghiera:祈り》

Vissi d’arte, vissi d’amore,
non feci mai male ad anima viva!…
Con man furtiva
quante miserie conobbi, aiutai…

歌に生き、愛に生き
私は生きているものに決して悪いことはしませんでした…
ひそかに、貧しい人々に救いの手を差しのべ
多くの人々を助けました・・・

 

Sempre con fe’ sincera,
la mia preghiera
ai santi tabernacoli salì.
Sempre con fe’ sincera
diedi fiori agli altar.

いつも心からの信仰を持ち
私の祈りは
聖者たちのもとへとどけられました
いつも心からの信仰を持ち
私は花を祭壇にお供えしました。

 

Nell’ora del dolore
perché, perché Signore,
perché me ne rimuneri così?

この苦しみのときに、主よ、
何故、何故、
何故このように報い給うのか?

 

Diedi gioielli della Madonna al manto,
e diedi il canto agli astri, al ciel,
che ne ridean più belli.

私は聖母マリア様のマントに宝石を捧げました、
そして、星に、天に歌を捧げました、
そうすると、(空の星は)より美しく微笑みかけてくれました。

 

Nell’ora del dolor
perché, perché Signor, ah,

perché me ne rimuneri così?

この悲しみに苦しむ今、
何故、何故、主よ、ああ、
何故このように報い給うのか?

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《歌に生き、愛に生き》

一般には「歌に生き、恋に生き」として知られていますが、トスカは「私は歌に生き、神へのamoreに生きてきたのです。」と歌うので、ここでのamoreは「愛」と訳します。

この訳は《Preghiera/祈り》としての訳では正しいのですが、この曲そのものは単なる神への祈りだけなのか、と考えると私は否!と答えざるをえません。

トスカは神への信仰に忠実に生きてきたことを訴え、それなのに「この苦しみのときに、主よ、何故このように報い給うのか?」と神の存在への疑問を投げかけます。

perché  perché (何故、何故)と曲はどんどん高揚していきます。そして最高潮に達したときに“ああ”と発せられる嘆声は、当然ながら全力で発せられる高音のffなのですが、ブレスなしで発せられるその次の音はppとなっています。弱々しいppではなくコンサートホールでは2階席の最後部まで響き渡るppでなければなりません。そのffからppの嘆きに変るとき、トスカは神への救いを諦め地獄に落ちることを覚悟するのです。なぜなら敬虔なキリスト教信者のトスカにとって、殺人も自殺も、許されることのない、救いのない行為なのですから。

最後のppとffで歌う「ah,perché me ne rimuneri così?」は、もう神に救いを求めない、自力で恋人を救おうと決意する力強さをも表現しなければなりません。ffで嘆きの頂点に達しppでは神と決別する力強さをも表現しなければ、オペラは進行しないのです。

このすぐ後、トスカはイタリアを出国できるよう、スカルピアに通行証を求めます。スカルピアが書類を書いている間、食卓のナイフに気づいたトスカはそれを隠し持ちます。書き終えたスカルピアが“トスカ、とうとう我がものと迫るところを、トスカは“これがトスカのキスだ!といってナイフでスカルピアを刺すのです。

私にとって「Vissi d’arte, vissi d’amore(歌に生き、愛に生き)」は、Preghiera(祈りの歌)でありながら終には神への救いを諦め、人間として地獄に落ちる決意を感じさせるAriaなのです。

(杉本 知瑛子)

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あらすじ (wikipedia より)

1900年1月14日にローマで初演された。

『トスカ』は、コミック的要素をしばしば見せる『ラ・ボエーム』とは違い、現実主義的な強烈な劇的迫力をもつ悲劇である。

1800年頃のローマを舞台とした三幕オペラ。美しい歌姫トスカの愛人、画家カヴァラドッシは、脱獄した政治犯アンジェロッティをかばったため、警視総監スカルピアに捕らえられ、拷問を受ける。狡猾なスカルピアはトスカを巧みにだまして脱獄囚の隠れ場所を白状させ、カヴァラドッシを死刑にしようとする。

カヴァラドッシの助命を嘆願するトスカに、スカルピアは代償として関係を迫る。この苦しい境遇をトスカは、有名なアリア(三幕PREGHIERA:祈り)「歌に生き、愛に生き」で歌うのである。

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  • ところ:ローマ市、ローマ共和国(18世紀)
  • とき:1800年6月。ナポレオン率いるフランス軍が欧州を席巻していたころ。

おもな登場人物

  • フローリア・トスカ:有名な歌手(S)
  • マリオ・カヴァラドッシ:画家でトスカの恋人(T)
  • スカルピア男爵:ローマ市の警視総監(Br)
  • チェーザレ・アンジェロッティ:前ローマ共和国統領(B)
  • スポレッタ:スカルピアの副官(T)

第1幕

逃亡した政治犯アンジェロッティが隠れ家を求めて、親族が礼拝堂を持つ聖アンドレア・デラ・ヴァレ教会にやってくる。ここには妹のアッタヴァンティ侯爵夫人がやってきて兄の解放を祈っていた。その際彼女は気づかなかったが、画家マリオ・カヴァラドッシが教会の注文で描いているマグダラのマリア像のモデルにしていた。 一族の礼拝堂に隠れると、堂守に続いてカヴァラドッシが登場する。堂守は画家が絵筆を洗うのを手伝う。カヴァラドッシは仕事の手を休め、ポケットに持っていたメダルを見つめる。このメダルにはトスカの肖像が描かれており、彼は自分が描く肖像画の青い瞳に金髪のモデルと、黒い瞳に茶色の髪のトスカとを比較して歌う(妙なる調和)。

堂守はカヴァラドッシのアリアの間、絵のモデルが礼拝に来る夫人であることに気づき呆れて、「ふざけるなら俗人にして、聖人は敬ってくれよ」と合いの手で歌い、画家に促されて退場する。カヴァラドッシは一人になるが、物音でアンジェロッティがいることに気づく。彼は旧知の画家と知って隠れ場所から出てきて、サンタンジェロ城(ローマ教皇領の牢獄)から逃げ出してきたことを話す。そこへトスカが外から「マリオ!」と呼ぶので、カヴァラドッシは彼に飲み物を与えて隠れるように言い、アンジェロッティは再び礼拝堂に身を隠す。

トスカはマリオとその夜遅く会う約束をするため来たのだが、ドアの外から聞こえる話し声とカヴァラドッシの落ち着かない態度を見て、嫉妬心から彼が誰か他の女性と密会していたと疑う。カヴァラドッシを別荘でのデートに誘う(緑の中の二人の家にいきましょう)が、彼が描いた女性の顔を見てその疑いは確信に変わる。しかし、マリオの説明を聞いてその場は納得し、肖像画の瞳の色を黒くすることと、夜に会う約束をしてその場を去る。

アンジェロッティが再び現れ、脱出計画を話し合う。カヴァラドッシは彼に自分の別荘の鍵を渡し、アンジェロッティは妹が祭壇に隠していた女性の服を着て脱出するというものだった。その時サンタンジェロ城で砲声が轟き、アンジェロッティの逃亡が発覚したことを告げる。彼は急いで逃げ、画家も同行する。

堂守が大勢の少年合唱隊や待者ともに戻ってくる。彼らはナポレオン軍がマレンゴの戦闘に敗れたという誤報を信じ、神に感謝してテ・デウムを歌う。そこへ警視総監スカルピアが副官スポレッタと部下を従えて登場する。聖堂の礼拝堂で、伯爵夫人の扇と空になった籠を見つけ、疑いを抱く。

彼は疑い深く堂守を尋問すると、カヴァラドッシが礼拝堂の鍵を持っていないこと、彼は食事を摂らないと言っていたことがわかる。そこへ疑い深いトスカが戻ってくる。教会は人で溢れ、枢機卿がテ・デウムの準備をする。スカルピアはトスカの様子を物陰からうかがったあと、彼女に扇を見せて嫉妬心を煽ると、彼女は立腹しその場を去る。スカルピアは部下に彼女のあとをつけるように命じると、トスカに対する恋心を情熱的に歌う。教会ではテ・デウムが始まり、彼もその祈りに和しつつ、目指す男とトスカを二人とも手に入れるのだと歌う。

第2幕

スカルピアが公邸としているファルネーゼ宮殿(現在はフランス大使館として使用)で夕食を摂っている。外では戦勝祝賀会の歌声が聞こえる。彼は部下にトスカをリサイタル終了後にここに呼ぶように命令する。彼は皮肉交じりにトスカを自らの権力で屈服させるのだと歌う。

スポレッタが拘留したカヴァラドッシとともに登場する。アンジェロッティはからくも逃れたのだった。スカルピアは画家を尋問するが白状しない。そこでカヴァラドッシを別室で拷問にかける。そこに入れ替わりにトスカが登場し、スカルピアに恋人の苦痛のうめき声を聞かされると、ついに堪えきれずにアンジェロッティの隠れ場所をしゃべってしまう。画家が部屋から引き戻され、彼女が秘密を漏らしたことを激しくなじる。

そこに伝令が登場し、ナポレオンがマレンゴでオーストリア軍を破ったことを知らせる。動揺するスカルピア達の面前でカヴァラドッシは勝鬨の声を上げ、牢屋に連行される。 後を追おうとするトスカを、スカルピアが呼びとめる。彼女は賄賂で助命を得ようとするが、スカルピアは恋人を自由にする代償として彼女の身体を求める。トスカは絶望し、何故このような過酷な運命を与えたのかと神に助けを求めて祈る(歌に生き、愛に生き。スポレッタが戻ってきてアンジェロッティが自殺したことを告げ、カヴァラドッシの処遇をたずねる。

トスカが観念したと見たスカルピアは、スポレッタに対しカヴァラドッシの見せかけの処刑を行うよう命令する。パルミエリ伯爵の時と同じだ、と説明するのを意味ありげに聞き、部下は退出する。 トスカはイタリアを出国できるよう、スカルピアに通行証を求める。スカルピアが書類を書いている間、食卓のナイフに気づいたトスカはそれを隠し持つ。書き終えたスカルピアがトスカ、とうとう我が物と迫るところを、トスカはこれがトスカのキスよといってナイフで胸を刺す。息絶えた彼の手から通行証を奪うと、トスカは信心深く遺体の左右に燭台をおき、十字を切ると遠くの太鼓の音をききつつ去る。

第3幕

サンタンジェロ城の屋上にある牢屋と処刑場。 冒頭、ホルンのファンファーレに続いて、朝を告げる鐘の音と羊飼いの牧歌が聞こえる。カヴァラドッシは夜明けに行われる処刑を牢屋で待っている。彼は司祭との面会を断り、看守に指輪を与えてトスカに伝言を渡すよう頼む。別れの手紙を書き始めるが、自らの死と恋人との別れを想うと絶望して泣き崩れる(星はきらめき)。

トスカが現れ、驚くカヴァラドッシに通行証を見せ、これまでのいきさつを語る。空砲で見せかけの処刑が行われること、恋人の助命を引き換えに身体を要求したスカルピアを、信心深く虫も殺せぬ彼女が刺し殺したことを聞き、カヴァラドッシは彼女の手をとって「おおやさしい手よ」とトスカの愛情と勇気をたたえる(優しく清らかな手)。時間が迫ったことを告げる彼女にカヴァラドッシは君ゆえに死にたくなかったと語りトスカと互いの愛情を歌う(二重唱新しい希望に魂は勝ち誇って)。

看守がカヴァラドッシに時が来たことを告げる。 トスカに見送られて刑場に赴くカヴァラドッシに彼女はうまく倒れてねと言葉をかけ彼も劇場のトスカのようにと応じる余裕を見せる。

並んだ兵士たちが一斉に発砲し、カヴァラドッシは倒れる。トスカは彼の演技がうまいと一人ほめる。隊長が規則通り剣でとどめを刺すのをスポレッタが制し、一同去る。 兵士たちが去ったのをみてトスカはマリオに近づき、逃げようと声を掛けるが彼は動かない。

処刑は本物であった。スカルピアは最初からカヴァラドッシの命を救うつもりなどなかったのだ。パルミエリ伯爵もそのようにして欺かれたのであろう。 トスカは死んで横たわるカヴァラドッシの傍らでスカルピアの計略を悟り、マリオの名を呼んで泣き叫ぶ。そこにスカルピアが殺されていることを知ったスポレッタが兵士と共に駆け寄り、彼女を殺人罪で逮捕しようとするが、彼女は逃れ、サンタンジェロ城の屋上から身を投げる。

あらすじは英語版(The Opera Goer’s Complete Guide by Leo Melitz, 1921 version.をリコルディ社の台本と注釈により改訂)をもとに自由に訳した。

 

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