G. Puccini:『Turandot』より「Tu, che di gel sei cinta」(『トゥーランドット』より「氷のような姫君の心も」)
G. Puccini:『Turandot』より「Tu, che di gel sei cinta」
Giacomo Puccini:オペラ『Turandot』第3幕で召使リューによって歌われるこのアリアの場面:リューはカラフの父をかばい「自分だけがカラフの名前を知っている」と名乗り出て、カラフの名前を聞き出そうとする拷問をひとりで受ける。リューが拷問に耐えきれなくなったときに、トゥーランドットに対して歌うのがこの「氷のような姫君の心も」である。
「あなたはこの方を愛することになるでしょう。」と告げると、近くの兵の短剣を奪って自害をするのである。
杉本知瑛子(H9、文・美(音楽)卒)
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*弾き語り演奏(ソプラノ独唱&ピアノ伴奏:杉本知瑛子)
次回練習演奏録音の公開日:
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「Tu, che di gel sei cinta」(氷のような姫君の心も:リューのアリア)
《歌詞:原語(イタリア語:Ricordi版)・日本語訳:杉本知瑛子》
Tu che di gel sei cinta,
da tanta fiamma vinta,
l’amerai anche tu!
Prima di questa aurora,
io chiudo stanca gli occhi,
perchè egli vinca ancora …
Ei vinca ancor!
Per non … per non vederlo più!
Prima di questa aurora,
io chiudo stanca gli occhi
per non vederlo più!
氷に囲まれた姫様、
あなた様は激しい炎に征服されました、
あなた様もまたあの方を愛されるでしょう!
夜の明ける前に、
私は疲れた目を閉じます、
何故ならあの方は再び勝利するでしょうから・・・
再び勝利するでしょうから!
もはや、決してあの方にお目にはかからないでしょう!
夜の明ける前に、
私は疲れた目を閉じます
もはや、決してあの方にお目にはかからないでしょう!
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*美しいトゥーランドット姫に、ダッタン国の王子カラフは恋をします。
復讐に燃える冷酷な姫トゥーランドットと結婚するには3つの謎を解くことが必要でした。
しかし謎が解けないと、首をはねられてしまうのです。
カラフは見事謎を解き、最後にカラフの愛がトゥーランドットの愛を呼び起こします。
二人は結ばれ、皆の歓声の中でオペラは終わります。
プッチーニのオペラでは、トスカにしろ蝶々夫人にしろ主役の女性が自害して幕が下り、そういうストーリーで強い感動を表現するオペラが多々あります。ここではトゥーランドットという復讐に燃える悲劇の王女はカラフ(敗戦国の王子)の愛によって救われハッピーエンドとなります。ですが、それでは劇中大いなる感動を呼ぶプッチーニのリリコと悲劇的なドラマティコのアリアはないのでしょうか?・・・いえ、もちろんあります。それを歌うのが召使のリューなのです。カラフの歌う「誰も寝てはならぬ」はあまりに有名になっていますが、ソプラノの曲としてはリューのアリア「ご主人様、お聞きください~」と「氷のような姫君の心も」の2曲がよく歌われます。
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(登場人物):トゥーランドット姫(ソプラノ) 。アルトゥーム(テノール):中国の皇帝、トゥーランドットの父。ティムール(バス):ダッタン国の盲目の王、戦いに敗れ国を追われている。カラフ(テノール):ティムールの息子、姫に一目惚れをする。リュー(ソプラノ):召使い、カラフを密かに愛している。ピン・ポン・パン:中国の大臣
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(あらすじ)
第1幕:北京、城門の前
役人が
「トゥーランドット姫と結婚するには、条件がある」
「それは、姫が出す3つの謎を解くことだ。」
「しかし、解けない場合はその者の首をはねる。」
と、読み上げています。
そして「今日もペルシャの王子の首がはねられる。」と続けます。
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野次馬の人々の中には、盲目の老人(ダッタン王ティムール)と、その召使いリューの姿もあります。
人混みに押されてティムールが倒れると、リューが「誰か助けて下さい!」と叫びます。すると生き別れになった王子カラフが助けに来きます。
戦いに破れ国から逃げてきた3人は、再会を喜びます。
日の出を待って、死刑の執行の時間が訪れます。
ペルシャの王子が処刑台にくると、トゥーランドット姫が登場します。
そこでカラフはトゥーランドット姫に一目惚れしてしまいます。
そして父ティムール、リューの制止を振り切り、求婚のドラを鳴らしに向かいます。
そこにピン、ポン、パンの3人が現れて、カラフの考えを改めさせようとします。
しかし死刑が執行されたペルシャの王子の首をみても、カラフの考えは変わることはありません。
カラフを密かに愛しているリューは、「ご主人様、お聞きください。私はあなたを失うことは耐えられません。」とカラフに訴えかけます。(Signore, ascolta! )
しかしカラフはリューに「泣くな、リューよ。父を頼んだぞ。」(Non piangere, Liù! )と言葉を送ると、トゥーランドットの名を叫び求婚のドラを鳴らします。
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第2幕:(3人の大臣たちが、故郷を懐かしむ)
ピン、ポン、パンが「今年は13人もトゥーランドットのために死刑になった。」と語ります。
そして、大臣である自分たちの仕事が死刑執行に成り下がったことを嘆いています。
3人は「故郷に帰りたいな」と故郷を懐かしみます。
遠くからは処刑を促す人々の声が聞こえ、3人は今までに処刑された王子たちを思い出します。
そして「トゥーランドットの恋が実ったら、この生活は変わるのにな。」と語り合います。
やがて宮殿が騒がしくなると、3人は現実に戻り「拷問を楽しもう!」と叫び、立ち去っていきます。
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人々が皇帝を称えています。
皇帝はカラフに求婚をやめさせようとするが、カラフの意志は変わりません。
皇帝は「しょうがない。お前の運命を成し遂げよ。」と告げます。
役人が条件を読み上げると、トゥーランドット姫が登場し「私は敵国に復讐するために、この謎を出す。」と語ります。
そして姫が謎かけを出すと、カラフは「希望」「血潮」「トゥーランドット」と謎をすべて解きます。
人々は歓声を上げます。
しかし、トゥーランドットは父である皇帝に「彼に娘を渡さないで。私は誰のものにもなりません!」と懇願します。
するとカラフは「夜が明けるまでに私の名を当てたら、私は死にましょう。」と反対に謎を出します。
皇帝は「あなたが私の息子となることを、天が願っている。」と語り、人々は「皇帝に栄光あれ!」と叫びます。
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第3幕:(カラフは勝利を確信し「誰も寝てはならぬ」を歌いあげる)
北京の街には、「カラフの名前がわかるまで誰も寝てはいけない」という命令が出ています。
カラフは自分の勝利を確信して「誰も寝てはならぬ」を歌いあげます。(Nessun dorma)
3人の大臣が現れ、カラフに
「美しい女が望みか?」
「富が欲しいか?」
「何もいらないなら、遠くに行ってくれ!」
「じゃないと私たちが殺される。」
等と言いますが、カラフは取り合いません。
そこに捕えられたティムールとリューが連れてこられます。
「彼らならカラフの名を知っているはずだ」と、リューは拷問にかけられます。
リューは
「その名を秘密にすることは、私の喜びです。」
「この愛は、拷問も甘く感じさせます。」
と語ります。
そして、トゥーランドットに
「あなたはこの方を愛することになるでしょう。」(Tu che di gel sei cinta)
と告げると、近くの兵の短剣を奪って自害します。
姫の心が揺れ、カラフは愛を確信し”自身の名”を名乗る
舞台はカラフとトゥーランドットの二人だけになります。
カラフはトゥーランドットのヴェールを上げ、「あなたの冷たさは偽りだ」とキスをします。
初めは頑なに気持ちを閉じ込めていたトゥーランドットでしたが、次第に心を許し、ついに涙を流します。
トゥーランドットはカラフに
「これ以上の勝利を求めないでください。」
「あなたの謎と共に去ってください。」と語ります。
カラフはトゥーランドットの愛を手にしたと確信し、「私はカラフ、ティムールの息子です。」と名を名乗ります。
するとトゥーランドットが「あなたの名前がわかった!」と叫び、人々の前に向かいます。
(宮殿前の広場)
皆が見守る中、トゥーランドットは皇帝に「彼の名は…愛です!」と叫びます。
カラフとトゥーランドットは抱き合い、人々は歓声を上げるなかオペラが終わります。
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*流浪の王子カラフが命をかけて挑んだトゥーランドット姫の三つの謎について
1.
闇夜に虹色の幻となって舞い ふさぎこんだ人々に翼を広げる
世の民はみなそれを求め それを切に願う
その幻は人の心の内に甦るために 夜明けと共に消え去る
夜毎に生まれ 夜明けと共に消える幻 とは?
*それは<希望>
2.
炎のごとく燃え上がるが炎とならず 時には熱をもち激しい情熱となる
無気力は それを冷たくする 死ねば冷たく 夢みれば燃えあがる
心を澄まし耳を傾ければ それには音があり 夕暮れの鮮やかな輝きがある
*それは<血潮>
3.
お前に火をもたらす氷 火の中にも冷たさを捕える
清いが闇に包まれている
それがお前に 自由を望めば束縛し お前を受け入れれば 王にする
火をもたらす氷 それは何か?
*それは…<トゥ-ランドット>
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*【参考資料】
「トゥーランドット」は、アラビア半島からペルシャにかけて見られる「謎かけ姫物語」と呼ばれる物語の一類型であり、同系の話は古くはニザーミーの叙事詩『ハフト・ペイカル(七王妃物語)』(1197年)にまでさかのぼる。
ただし、残されているペルシャ語写本にはトゥーランの国名はあるもののトゥーランドットの人名はなく、フランス人の研究者オバニアク(Robert Aubaniac)は、この「トゥーランドット」という名はペティが出版する際に名づけたのかもしれないとしている。このペティの手になる「カラフ王子と中国の王女の物語」を換骨奪胎して生まれたのがゴッツィ版「トゥーランドット」であり、この作品はさらにシラーによってドイツ語に翻案されている(1801年)。なお、プッチーニのオペラはゴッツィ版が元であり、ウェーバーのオペラはシラー版を元にしているとされている。
『トゥーランドット』(Turandot)は、フランソワ・ペティ・ド・ラ・クロワ(François Pétis de la Croix)が1710年から1712年に出版した『千一日物語』(原題Les Mille et un Jours、『千一夜物語』とは別の作品)の中の「カラフ王子と中国の王女の物語」に登場する姫の名前であり、また、その物語を基にヴェネツィアの劇作家カルロ・ゴッツィが1762年に著した戯曲、および、それらに基づいて作曲された音楽作品である。
1924年10月には台本はほぼ最終稿の形を整え、プッチーニの作曲を待つばかりだったが、彼の病気は外科手術不能の癌であると診断される。プッチーニ夫妻にはその事実は秘され、息子トニオだけが真実を知っていた。彼らは最後の望みを托して、この頃最先端の癌治療法とされたラジウム療法(ラジウム含有の金属針を患部に挿入)を受けにブリュッセルのレドゥー教授を訪問すべく11月4日に出発する。3時間にわたる手術は同月24日に行われ、いったんは成功かと思われたものの、突然の心臓発作によりプッチーニは11月29日息を引き取った。『トゥーランドット』は召使リューが自刃した箇所以降が未完となり、あとは23ページにわたるスケッチだけが遺された。
プッチーニの死後、補作を巡っての混乱があった。
プッチーニの息子トニオが推したのがフランコ・アルファーノであった。より中庸温厚な性格のアルファーノならプッチーニの構想により敬意を払ってくれるであろうとの期待、また東洋的な題材を扱ったオペラ『サクーンタラ』(Sakuntala, 1921年)が成功していたことも理由であった。アルファーノは1926年1月に総譜を完成させた。
プッチーニ存命中の予定よりちょうど1年後の1926年4月25日、ミラノ・スカラ座にてオペラ『トゥーランドット』は幕を開けた。初日当夜、プッチーニによる作曲部分が終わったところ(リューの自刃の場面)でトスカニーニは突然指揮を止め、聴衆に「マエストロはここまでで筆を絶ちました」(Qui il Maestro finí.)と述べて舞台を去り、幕が慌ただしく下ろされた。2夜目になって初めてアルファーノ補作部分(トスカニーニによるカット処理後)が演奏された。プッチーニ亡き後、イタリア・オペラ界における最大の権威はトスカニーニに存することが如実に示されたエピソードであった。(Wikipediaより抜粋)