G.ヴェルディ『ドン・カルロ』より「世の空しさを知る神」(全曲)

ヴェルディ『ドン・カルロ』より

「世の空しさを知る神」

ラルゴの重々しい序ののちに、修道院の場面で、エリザベッタは世のはかなさを知り、過去の日の楽しさ、故国フランスの想い出、ドン・カルロへの憧れ、彼との別れの悲しさなどを折り込んで、「むなしき世を・・・」と歌い出す。

練習演奏録音公開予定:2024年3月3日

G.Verdi『Don Carlo』より「Tu che le vanità」

Elisabetta [scena ed aria];Ricordi版ATTO QUINTO

Tu che le vanità conoscesti del mondo
e godi nell’avel il riposo profondo,
s’ancor si piange in cielo, piangi sul mio dolore,
e porta il pianto mio al trono del Signor.

Carlo qui verrà!   Si!  che parta e scordi omai…

A Posa di vegliar sui giorni suoi giurai.
Ei segua il suo destin, la gloria il traccierà.
Per me, la mia giornata a sera è giunta già!

Francia, nobile suol, sì caro ai miei verd’anni!

Fontainebleau! ver voi schiude il pensier i vanni.
Eterno giuro d’amor là Dio da me ascoltò,
e quest’eternità un giorno sol durò.

Tra voi, vaghi giardin di questa terra ibéra,
se Carlo ancor dovrà fermar i passi a sera,
che le zolle, i rusceli, i fonti, i boschi, i fior,
con le lor armonie cantino il nostro amor.

Addio,addio, bei sogni d’ôr, illusion perduta!
Il nodo si spezzò, la luce la luce ・・・ è fatta muta!
Addio,addio, verd’anni, ancor! cedendo al duol crudel,
Il cor, il cor ha un sol desir: la pace dell’avel!

Tu che le vanità conoscesti del mondo
e godi nell’avel il riposo profondo,
s’ancor si piange in cielo, piangi sul mio dolore,
e porta il pianto mio altrono del Signor,

ah il pianto mio reca a’ppié del Signor.

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ヴェルディ『ドン・カルロ』より「世の空しさを知る神」

この世のむなしさを知り、
墓で深い安息を得る者よ。
もしあなたが天でまだ泣くなら、私の悲しみのために泣き
私の泣き声を主の御座に届けてください。
カルロは来なければならない!彼を出発させ、忘れさせよう。
私はポーザに彼の日々を見守ることを誓った。
彼が運命に従えば、栄光が追いかけてくる。
私には、人生はすでに夕暮れだ。
フランスよ、高貴な国よ、私の青春に愛された。
フォンテンブローよ、思いはあなたにむなしく開かれる。
私は、神に永遠の愛の誓いをしたが、
そして、この永遠は一日にしか続かなかった。
イベリアの美しい庭に
もしカルロがまだ夕暮れに歩みを止めるなら
土塊、小川、泉、森、花
それらのハーモニーで、私たちの愛を歌うだろう。
さようなら、美しい黄金の夢、失われた幻影よ。
絆は壊れ、光は消えた。
さようなら、青春の日々よ、残酷な悲しみに屈するも
心の願いはただ一つ、墓の平和だ。
この世のむなしさを知り、
墓で深い安息を得る者よ。
もしあなたが天でまだ泣くなら、私の悲しみのために泣き
私の泣き声を主の御座に届けてください。

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参考

詩人フリードリヒ・フォン・シラー(1759-1805)の原作をもとに、フランス語の台本に作曲された「ドン・カルロス」は5幕仕立てで、1867年パリ・オペラ座で初演された。パリのイタリア歌劇の支配人エミール・ペランから新作の歌劇を依頼され、そのため15年ほど前にパリオペラ座の支配人ネストル・ロクプランからすすめられ、わざわざスペインにも旅行して歌劇化を考えたシラーの戯曲『ドン・カルロス』をとりあげた。台本はフランス語でジョセフ・メリーが書いていたが、メリーの死後ペランの秘書で娘婿のカミーユ・デュ・ロークルがそれを引き継いだ。そして、ヴェルディは65年冬から作曲を始めた。

当時のイタリアは、ローマをフランスに、ヴェネツィアをオーストリアに占領され、首都をフィレンツェに移して、国家的に極めて弱体であった。そこに普墺戦争が生じ、イタリアはフランスのすすめでプロシアに味方したが、プロシアは大勝したにもかかわらず、イタリア軍は各地で完敗した。

ヴェルディも『ドン・カルロス』をパリのために作曲するのに気が進まず、契約を解除しようとしたがそれも実現しなかった。こうして再びフランスを訪れ1866年秋に全体を仕上げ、翌年パリで初演された。

指揮者と歌手の不熱心と拙劣さもあり、豪華な招待客にもかかわらず、初演は完全な失敗だった。原因は5幕という長大なことや、ワーグナーをはじめとする外国の作曲家からの影響が強すぎると批評されたことが大きいといえた。具体的な改作は1881年になってからである。5幕は4幕にされ原作の第1幕全体と第2幕のバレエが削られた。第1幕の終りのフィリッポ2世トロドリゴの2重唱の後半は新たに作曲し直されるなどの手が加えられた。現在上演される場合には、フランス語上演かイタリア語上演か、また5幕版か4幕版か明記されます。

「たしかに、この作品はワーグナーを、思わせる技法を用いている。その動機の用法、旋律の展開、朗唱風な旋律の愛好、表現力の強い和声、変化に富む管弦楽法などでそういうことがはっきりといえる。しかし、旋律の豊かさ、悲劇的な描写と迫力、その間に挿まれた流れるような抒情性は、まさにヴェルディ独自のものである。さらに、ここでは、重唱あるいは合唱の用法、行進曲の堂々とした扱い方は、これまでのヴェルディの歌劇と比べて格段の進歩を見せ、次の『アイーダ』への段階を予想させる。」(門真直美 著:名曲解説全集・音楽の友社・S.41第6版より抜粋)

初演:1867年3月11日 パリ・オペラ座(「ドン・カルロス」としてフランス語)
4幕版初演:1884年1月10日 ミラノ・スカラ座(「ドン・カルロ」としてイタリア語)

あらすじ

1560年頃 スペイン マドリード
始まる前の物語
スペイン王フィリッポ2世(=フェリペ2世)の王子ドン・カルロは、婚約者であるフランス王女エリザベッタと思いを通じ合っていたが、政治的な圧力により、エリザベッタはフィリッポの妃になるよう変更されてしまう。カルロは、かつての許婚を母として迎えることになる。
第1幕 第1場 サン・ジュスト修道院内
修道士たちが、亡き前王カルロ5世(カルロス1世)のために祈りを捧げている。悲嘆に沈むカルロは、アリア「僕は彼女を見た、そしてあの笑顔は」で、父によって引き裂かれた恋の悩みを歌う。その時ある修道士の祈りの声が響いてくる。その声があまりにも祖父であるカルロ5世の声に似ているので、前王が生きているという噂を思い出したカルロは恐れおののく。そこへ親友のロドリーゴが現れ、悩みがあるなら打ち明けてほしいと告げる。カルロは、義母を愛していると告白する。ロドリーゴは驚くが、気持ちを圧政に苦しむフランドルの惨状に向けるようカルロに勧める。カトリックのスペインに対し、フランドルはプロテスタント。二人は手を取り二重唱「我らの魂に友情と希望を」を歌い、永遠の友情を誓う。
第1幕 第2場 サン・ジュスト修道院の前庭
庭で女官たちが王妃登場を待っている間、エボリ公女が「美しいサラセンの宮殿の庭に(ヴェールの歌)」を歌い、座を盛り上げる。王妃エリザベッタが登場するので、皆うやうやしく迎える。ロドリーゴが現れ、エリザベッタに「フランスのお母上からの手紙」を手渡すと同時に、カルロからの手紙も渡す。続いて「カルロは苦しい日々を送っている」と会いたがっていることをほのめかす。エボリは、カルロが自分への恋に悩んでいると勘違いする。そこに現れたカルロはエリザベッタを見つけ、表向きは自分のフランドル行きを王に取り成すよう頼むが、恋心を抑えきれない。エリザベッタは、過去の思い出に心が揺らぎながらも、きっぱり拒絶する。カルロが去った後突然フィリッポが現れ、エリザベッタが一人でいることを見咎め、王妃付きの女官を職務怠慢によりフランスへ帰るよう言い渡す。エリザベッタは「お泣きにならないで、友よ」を歌い、彼女を慰める。涙にくれるエリザベッタとともに皆退場するが、王はロドリーゴを呼び止める。ロドリーゴはフランドルの惨状を訴え、自治権を与えるよう要求する。王は拒否し、「血によって平和を得る」と言い放つ。ロドリーゴは「それでは歴史家があなたを暴君ネロと呼ぶ」と断じる。歯に衣着せぬロドリーゴにフィリッポは見所を感じ、宗教裁判官に注意するよう忠告した上で、王妃と王子の仲を探るよう命じる。ロドリーゴは王の信頼を勝ち得た喜びを隠しつつ命に従う。
第2幕 第1場 噴水のある王妃の庭園
密会を誘う手紙を受け取ったカルロは、エリザベッタからの手紙と信じ切っている。現れたヴェールの女性に「あなたこそ、あこがれの君」と愛を打ち明ける。しかしヴェールの女性はエボリで、義母を愛している本心を知られてしまう。取り乱すカルロ。現れたロドリーゴは事態を執り成そうとする。三者三様の三重唱「気をつけよ、偽りの息子」となり、エボリは怒り去る。ロドリーゴは、カルロの身を案じ、王妃との手紙を預かることにする。
第2幕 第2場 ノストラ・ドンナ・ダトーチャ大聖堂の前の広場
異端者の火刑の日。異端者の火刑はかなりのイベントであり、見物人でごった返している。そこへ異端者たちが引き立てられてくる。カトリックの国スペインではプロテスタントは異端であり、処罰の対象となる。国王夫妻が到着し、フィリッポは「神の敵に死を」と宣言する。そこへカルロがフランドルの使節を連れて現れ、王にフランドルのプロテスタントへの慈悲を乞う。エリザベッタはじめ皆も慈悲を願うが、フィリッポは許そうとしない。そのフィリッポの前にカルロが剣を抜き立ちふさがる。フィリッポはカルロを取り押さえるよう命じるが、誰も動けない。その剣を納めさせたのは親友ロドリーゴだった。驚きつつも剣を渡し、縛に就くカルロ。王はロドリーゴに公爵の位を授ける。
第3幕 第1場 マドリードの城の王の一室
妻に愛されず息子にも裏切られたフィリッポは、アリア「一人寂しく眠ろう」を歌い、その心中を吐露する。現れた宗教裁判長に、フィリッポはカルロの処置を相談する(珍しいバスの二重唱)。カルロは死刑、ロドリーゴは異端と告げられる。ロドリーゴの命を差し出すよう求める宗教裁判長に対し、忠臣の命は与えられないと断るフィリッポ。宗教裁判長は、王とて宗教裁判には勝てぬと不気味な雰囲気を残して立ち去る。そこに慌てたエリザベッタが登場し、文箱が盗まれたと申し出る。その文箱は王の手中にあり、入っていたカルロの肖像画からカルロとの関係を追及される。潔白を訴えるエリザベッタの言葉もフィリッポの耳には入らない。エリザベッタは失神し、ロドリーゴとエボリが駆けつけ介抱する。フィリッポはロドリーゴを連れて去る。文箱を奪い、エリザベッタを罠にはめたのは嫉妬に狂ったエボリであった。良心の呵責に耐えられずエリザベッタに真実を打ち明け、もう1つの秘密、王との不倫関係も打ち明ける。エリザベッタ深く悲しみ、この国を離れるか、修道院に行くように言い残し、静かに去る。エボリは、アリア「呪わしき美貌」を歌い、思い上がった自分を悔い、その心情を吐露する。
第3幕 第2場 ドン・カルロの捕らえられている牢獄
カルロが捕らわれている牢にロドリーゴが訪ねてくる。ロドリーゴは、長大なアリア「私に最後の日が来た」を歌い、カルロに全てを任せ、死を決意する。その時銃声がし、ロドリーゴは倒れる。虫の息で、全てはエリザベッタに任せてあるから明晩サン・ジュスト修道院へ行くよう言い残し死ぬ。そこにフィリッポがやってきてカルロと話をしようとするが、カルロは反抗的な態度をとる。民衆がカルロ救出にやってくる。宗教裁判長の一喝で民衆はひれ伏す。カルロは、エボリの手引きで脱出する。
第4幕 サン・ジュスト修道院
修道院でエリザベッタは、アリア「世の虚しさを知る方よ」を歌い、自分の運命を悟る。そこへカルロが登場する。エリザベッタはロドリーゴからの遺言を伝え、フランドルに情熱を傾けるよう諭す。そして二人はこの世での愛は諦め、天国での再会を約束する二重唱を歌い上げる。そこにフィリッポと宗教裁判長が現れ、二人を捕らえるよう命じる。その時前王の墓が開きカルロ5世の王冠を被った修道士が現れ、カルロを墓の中に引きずり込む。エリザベッタは倒れ、みな驚愕のうちに幕となる。

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