会員便り(杉本):恐怖の歯科治療

〔会員便り〕

           「恐怖の歯科治療」

                      杉本 知瑛子(H.9、文(美:音楽)卒)

昨年12月、今年1月予定の抜歯手術を緊急?ということで某歯科大学付属病院で施術された。

手術前後一週間は抗生物質のお薬を毎食後(食後30分後)に飲む様担当医よりきつく言い渡され、

毎朝朝食を作り、昼食を作り、夕食を作り、言われたとおりの時間にお薬を飲んだ。

手術後も傷が相当深いということで、プラス5日間処方された。

今年1月以降にももう一本、上の前歯の手術をされる予定なので、当分はお薬と治療に追いかけられる生活になりそうである。

歯の病変は2箇所(上側の横と前)、どちらも歯の根っこが折れて(1本は裂けて)それが原因で骨の病変となっている。

普通の治療では、歯を抜き、折れた歯も取り除き病変した骨部分は削り取る、という手術になるそうであるが、よほど注意深く手術をしないと隣の歯まで抜かなければならなくなるとのことで、(脅されて?)完璧な手術のため指示されたお薬は時間通りきちんと飲んだ。(つまり、私にとっては早寝早起きである)

そして手術の時・・・感動を頂いた手術の日のことを思い出す。

治療台(椅子?)のポジションから麻酔の量(他科での治療は今まで歯を削るだけでも、治療後一時間以上顔まで痺れていたが、今回病院を出たときには、もう歯さえ痺れていなかった)まで、心臓に負担がかからないように細かく計算され準備をして下さっていたようであった。

そして抜かれた歯の根を見てその大きさにびっくり!、先生はどんなにすごい力をお持ちなのだろうと思いながら、(裂けた根の断片除去、大きな根の抜歯、骨の病変部の除去、縫合)と素早い処置を的確にされていく先生と医療現場の雰囲気に飲み込まれてしまっている自分を発見したのである。

まるで、名医の医療ドラマが目の前で演じられているようで、手術はすばやいスピードで完璧に次から次へと行われていった。(30分で完了)

傷口の縫合もいったい何針縫うのかと思うほど細かく丁寧にされた。

(手術前の説明で“全力で他の歯は残るようにする”と言われたとおりの手術であった)

麻酔も含め、手術中も手術後も痛みは全く無くまた腫れる(化膿)こともなく、翌々週から抜糸が始まった。

それでも気を抜いて傷口(抜糸後でも)が化膿すれば大変らしく、年末年始もおとなしく・・・

体力温存の日々であった。

 

1月以降(結局2月)の手術は上の前歯なので、(横と同じく根の部分が折れているのであるが)この抜歯は断固拒絶である。

年齢を重ねてもオペラやリートはまだ歌いたい。

そんな時少しでも不自然な息漏れがあると・・・

考えられない(恐ろしい)状況となるのは明らかである。

このS先生なら歯を抜かずに治療して頂けると固く信じ、抜歯をせずにとお願いした。

・・・・・・・・・・・

S先生に初めてお目にかかったのは、もう30年以上前のことである。

その時も“上の前歯3~4本抜くしか治療法がない”と言われる位、上顎の骨に病変が広がって“どんな偉い先生でも歯を抜かずに治療できない”とどの先生にも言われ続け、やっと泣く泣く抜く決心をした時、抜歯予定日の一週間前に、当時担当の先生が「だめとは思うが、一週間前にアメリカから帰ってきた歯周病の先生がおられるので、最後にもう一度その先生に尋ねてみる」と言われ、最後のあがき0.1%の可能性でもと考えられたのであろうか、そのアメリカ帰りの先生に尋ねに行ってくださったのである。

しばらくして戻ってこられ「多分治せるそうです。よかったですね。先生に一度診て頂きましょう」とのお話に信じられない思いで診て頂いたところ、「歯を抜かずに上顎の骨の手術だけで可能です。日本の医療技術では不可能ですが、アメリカの大学病院で何度もその手術はしていますから大丈夫です、完全に治ります。」とのお答えであった。

上の前歯3~4本も抜くということは、声楽家としての命が絶たれることに等しい。

歯の治療ミスからこういった病変になり、長期間抜きたくないと頑張った挙句のことであった。

そのため骨の病変も相当大きくなり、入院とまではいかなかったが大手術であったらしい。

(本人はあまり大手術という実感がなかったのであるが・・・)

上顎全体の骨の2度にわたる手術であった。

その時の以前から担当の先生もその病変が手術で完治するとは信じておられず、「歯は、2~3年は持つかもしれないが、爆弾をかかえているようなものだから・・・」と今回は取り敢えずの治療であると説明をされていた。(しかし、手術した骨の部分はS先生のお言葉通り立派に再生し、それ以後現在に至るまで、上顎の骨には何の異常も起こっていない)

手術後、手術をしてくださったS先生に年3~4回経過観察や歯石除去などのお世話になるだけで、オペラやリートの声楽演奏も何の不自然さも無く、今まで通り続けることができた。

それで今回も1月以降の手術、上の前歯は根を残したまま、折れた歯の根っこの除去と骨の病変部の除去手術をして頂ける事になったのである。

今まで歯の根っこが折れたことなど無かったので、何か特殊な事態かと思ったのであるが、どうもそうではないらしく知人も“歯の根っこが折れていて化膿したので抜いた”と言っているのを聞き、S先生にその話をした。

S先生のご説明では、“歯の根があっても根管治療を受けて神経を取った歯の根によくおこっているようです。神経を取った根は栄養が不足して弱くなるのでしょうね”とのことであった。

いったん虫歯になればそこを削って詰め物をする。

そこからまた虫歯になると又削って詰め物やかぶせの治療をする。

歯が痛くなるのは耐え難い痛みなので、そんな時根管治療で神経を抜くと言われたら“やれやれ痛みから解放される”と嬉しかったことを思い出す。一度もいやだと思ったことはない。

(神経を抜いて根管治療を受け、かぶせで治療すればもうその歯のトラブル~痛みや腫れ~から解放されると信じていたのである)

しかし、根管治療のミスで上の前歯3~4本も抜かなければならなくなったこと(S先生のお陰で骨の再生手術で助けられた)や、根管治療をしてかぶせた歯の根っこが弱体化し、それが折れて化膿し骨にまで病変が・・・でも神経がないので痛まない、そして知らない間に周りの骨や歯にも影響が・・・などは安易に痛みから逃れる歯科治療ばかり考えるな!という警鐘のようでもあった。

以前、歯が抜ければ脳にも大きな影響があり記憶が衰える、ということをテレビで放送していた。

咀嚼不能による全身の健康への悪影響と共に脳にまで悪影響があるとは、と歯の消失に恐れを抱くようになっていたのであるが、まさかこのような歯の失い方があるとは思いもよらなかった。

ずぼらが招いた結果(幼児期にきちんとした歯磨きの仕方を教えられなかったからでもあるが)であるが、S先生に徹底的に歯ブラシの使い方や歯間ブラシの必要性と使い方を叩き込まれてからは、歯石が一切つかなくなり虫歯にもならなくなった。

子供のころから安易に考えていた歯科治療(痛みからの解放)、そしてそれよりももっと安易に考えてしまっていた歯ブラシと歯間ブラシの使い方、基本(本質的で単純なこと)を常に守ることの難しさは何でも同じである。

このような優秀ではない患者に、根気強く何度も何度も教え諭してくださった先生には今更ながら脱帽である。

(完)

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