白石1) 雑文集「桜に寄せて」・・・(22号)
その一瞬が瞳の奥に永遠に映し出され、日本人の心にじわ~っと染み渡る薄紅色の桜の花。桜って本当にいいですね。心が洗われます。
では桜の文字の由来は? もともと桜は「櫻」と書きました。貝は子安貝のことであり貴重品や財宝として珍重され、それが2つ並ぶことで(女性の)首飾りを意味し、これに「木」を組み合わせて「首飾りのような実がなる木」と考えたそうです。
その時その時の状況で見る者に様々な思いをはせる桜・・・
(1)一日の桜
・早暁の 澄んだ朝色 薄紅に染め 桜の光 降り注いではそっと散り
・琥珀の木漏れ日 まぶし過ぎる和服の襟元 花びら一輪 するりと舞い落ち
・夕闇迫り 伏し目がちの淡い桜 はるか遠くで晩鐘の波
・夜のとばりをつき刺す光 心に絡む桜貝 妖美な桜の狂い咲き
(2)一年の桜
・百花繚乱 桜の乱舞 狂ったように咲き誇り
・花落ち 細身の葉桜に 色彩宿り 息吹の音色
・深まりゆく 秋の気配 真紅の桜 錦繍に埋もれ
・雪化粧 凍える寒さに耐え忍び 内に宿る 新たな命
(3)心の桜
・喜:無上の喜び 桜の微笑み 吹き誇るほど 天高く舞い
・怒:吹きまくる春の嵐 桜の花びら入り乱れ 怒りの衝動胸の内
・哀:はらはら舞い落つ よろいを脱いだ裸の桜 瞳に映る哀愁の色
・楽:世上の男女 桜花快楽 酒に酔いしれ 体に染み込み
花に酔いしれ 心に染み込む
(4)時代の桜
・悠久の平安
月明かり 艶やかに舞う優雅な曲線 十二単に色どりを添え
・戦国乱世
甲冑重く 一刀振り出すその先に 春の心 静かに宿る 愛する人は霞のかなた
・文明開化
揺れる風にさまよいながら 文明怒濤 花は乱舞
川面の桜 魅力に映るも不安に流され
・戦争
真っ赤な夕映え 魂揺らす桜の花びら 群青の海 静かに舞い落ち
美しくも悲しく散り逝く
・現代
激動の世に 春風さえもすき間風 乾いた音を立てながら 寂しい桜の独り言
われわれは与えられた時代を精いっぱい生き、そのわずか一瞬、桜と対峙する。
桜の大木は時代を超え、世の移りなす出来事を静かに幹に刻んでいる。
(5)1,000年の桜
悠久背負う1,000年の桜。いったい何を眺めてきたのだろう。各時代の人間模様・・・ときにはそっと手を差し伸べたいこともあっただろう。ときにはそっと言いたいこともあっただろう。それらをじっとこらえ静かに静かに見守ってきた。
桜に目はない でも瞳はある
桜に心(しん)の臓はない でも心はある
それが人間には分からない いや それを人間が分かろうとしないだけ
瞼を閉じ 耳をそっと当ててみる
木の温もりを感じるころに 心の中で同化する
ぜひ 歴史の生き証人に尋ねてみたい
かつて、祖国のために命を投げ出し、壮絶極まる戦いに巻き込まれた若者たち。最期の夜が白々と仏暁に変わるころ、青春に光り輝く若者たちが今生の別れに遭遇する。
特攻隊・・・再び戻ることのない大地に永遠の別れを告げさせられる。
視界を遮る桜の乱舞、その瞬間、瞳に映るその先に・・・切ないほど愛し合った恋人たち、郷里の両親、妹、弟、そしてあの懐かしい田園風景・・・
散り逝くわが身を桜に託し、願わくば、いとしい人のところまで、運んでほしいこの気持ち。
過酷な体験をすればするほど、心に深く傷痕を残す。先人たちの熾烈な葛藤があり、今のわれわれが平和をおう歌している。日本の花、大和の花、桜には彼らの切ない思いが宿っている。桜咲く季節、じっくり語りかけてみたい、感謝を込めて。
そして、この気持ち、春風に乗せて天まで届けたい。
そして、この平和な時代に生きているわれわれ、この幸せを先人たちに感謝したい。
桜 人生 みな同じ
心の季節 常に巡る
過去を学び 今を思い
そしてそれを 未来の糧に
この風景は“朝焼け”それとも“夕焼け”? “喜”それとも“哀”?
とらえ方は人それぞれ。答えはひとつではなく、また、ひとつである必要もない。
これからも先人たちに支えられた至高の人生を!
白石 常介(81、商卒:台湾三田会:顧問)