ソフィアさんちのチルちゃんと僕(85)~世阿弥と福澤諭吉(3-3)~
「ソフィアさん謡曲を習っていたんだろう?」
「そうよ。まだ声楽の勉強をする前に、興味本位で友人と一緒に習ったみたいね。謡だから声を出せればいいと思っていたみたいだけれど、先生の真似をするだけのお稽古だし、西洋音楽の発声とは全然違うので、一年位は笑いを堪えるのに苦労していたみたい。」
「観世流なので最初は“鶴亀”から始めるんだけれど、本を見てびっくり。外国語より分かりにくかったそうよ。それで謡曲のお稽古とはどんなものかメモに書いていたわ。」
1、「謡曲」とは日本古典芸能の能楽にあって、節を付けて謡う「歌謡」のこと。
能楽は室町時代からの三大演劇の一つ。
三大演劇とは能楽の他に、歌舞伎と人形浄瑠璃。
観世流、宝生流、金春流、喜多流、金剛流が主流5派と呼ばれています。
謡曲で使用される用語
謡曲には次のように、能楽のみに限定された意味で使われる専門語があります。
登場人物の名称
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- シテ・・・曲に登場する「主人公」を表わします。一曲の中で、前シテと後シテに分かれ衣装を変え仮面を付けて登場し、前シテと後シテは異なった表現をしますが同一人物です。
- ワキ・・・主人公のシテに対して脇役を演じる、「副主人公」です。シテのように二役を兼ねて演じることは無く、仮面を用いることもありません。
- ツレ・・・シテに伴われて登場する助演者ですが、曲によってはシテに対立する重要な役柄を演じることもあります。
- 地謡・・・能楽を盛り上げる合唱団であります。曲によっては、シテやワキと掛け合いで地謡が合唱する部分もあります。 二種類の吟声で謡い分け、それぞれに音階があります。
- 剛吟(つよぎん)・・・謡う時の音階が、上音、中音、下の中音、下音の4段階に分かれハッキリしています。
- 柔吟(よわぎん)・・・高い順に、甲グリ、クリ、上のウキ、上音、中のウキ、中音、下音、呂音の8段階に音階が分けられている。音楽で#や♭のような役目をして、曲に微妙に複雑な表現をもたらします。
このように謡曲では、芝居、映画の台本で配役の「セリフ」が歌詞であり、音楽の五線譜にあたる「音符」や「記号」も、謡本の中にあって「役のセリフ」や「合唱部分」の始まりや終わりにも記されています。
2.稽古
上手に「真似る」ことが稽古の基本になります。
- 先生が謡った一小節を繰り返して謡うこと。
- 謡曲の伝承方法は、古来より口伝です。先生が謡った歌詞の一行・一節を後に続けて同じよう繰り返して謡うこと、このように口伝が稽古の全てであり基本です。
初心謡本の「鶴亀」は、歌詞がわかりやすく、曲の節も平易であるので、初心者の稽古に最適であると言われてます。
「ソフィアさん、最初の“鶴亀”から一年間?笑い転げていたんだけれど、2年目?位の発表会?でシテを謡ってしっかり覚えて、それからはお稽古が終っても笑い転げなくなったみたいよ。」
「ゲラゲラゲラ、ソフィアさんらしいな。それでその次が“吉野天人”なんだよね。」
《3、〔物狂い〕:物狂いは、能の中で、もっとも面白さの限りをつくした芸能である。その中にさまざまな種類があるから、この物狂いを全般にわたって修得した演者は、あらゆる面を通じて、幅の広い演戯を身につけられるであろう。
(1):概して、何ものかに憑かれた役、神・仏・生きた人間の霊魂・死人の霊魂などが憑いた物狂いは、その乗り移ったものの本体を把握して演戯するように工夫すればよい。
(2):親に別れたり、子どもと別れて訪ね歩いたり、夫に捨てられたり、妻に死なれたりすることによって狂乱する物狂いは、容易ではない。
このような物思いによる物狂いの曲は、相手のことを一途に思うといった戯曲の主題を、役作りの基本に置くべきである。
そうした突き詰められた感情が、自然の風物によって触発され、一種の興奮状態になって種々の芸能をする。そのように狂うところを観せ場にして、心を込めて狂う演戯をすれば、必ず曲の主題からくる感動と見た目の面白さが一体となって舞台に表現されるであろう。
こうした曲づくりによって観客に強い訴えかけを与えたとすれば、それはこのうえない優れた演者だと考えてよい。~物狂いの扮装については、その役に似合ったようにすることは、いうまでもない。しかし、常の人と異なった精神状態の物狂いであるという意味で、時によっては、実際よりも派手な扮装にすべきである。また、その曲に合った季節の花の枝を持って舞ったり、飾りとして挿したりするのもよいであろう。》