ソフィアさんちのチルちゃんと僕(31)~やさしいことはむずかしい⑥~

「チルちゃん、『椿姫』の第二幕でヴィオレッタの声がヴィオレッタの魂の表現だとは分かるけれど、メモに書いてあるトスティはどうなの?

ソフィアさんトスティを舞台で歌ったことあるの?」

「大学一年の時一度だけ、でもその時録音担当をしていた音楽工学科の人の機械の針が吹っ飛んで(壊れた)ので、以後主催者の先生は機械持込の録音は頼まなくなって・・・

《6、お能の老女物、シューベルトの『冬の旅』。考えてみればこれらも極めて動きの少ない一見易しい作品であるが、知らぬ人はいないという位その世界の最高峰(至難)の作品でもある。相当観念的なこれらに比べ、トスティの甘美でやさしい旋律はポピュラーである。誰も至高の作品とはいわない。それはあまりにポピュラーで、観念的な研究もあまりなされていないためのものだけなのか。

「イタリアオペラの真髄(精神性)は、ベルカント唱法(人間が楽器)=美しい声、である。

観念的な言葉での研究で解明できるものではない」

「日本の音楽芸術は花魁(おいらん)のように櫛笄(くしこうがい)で飾り立てた創作美である。イタリアの音楽芸術はボッティチェリの“ヴィーナスの誕生”のように、何も飾らない自然な裸身の美である」

(故)中川牧三先生(日本イタリア協会会長)との雑談での先生のお言葉である。

完璧なベルカント(美しい声)をマスターした者でないとその世界を表現できないトスティの曲のように、難しい言葉を使って豪華絢爛に見せるのも文章の美であるなら、これ以上誤魔化しのきかない(ヴィーナスの)裸身(自然な、やさしい言葉)で真実を語るのも、また文章の美である。》

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◎花の写真は「ヒュウガミズキ」:宮川直遠氏撮影(ハイム「緑の環境委員会」より)

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