天川5)哲学随想:新時代の大学像(2)・・・17号

                        「新時代の大学像(2) 

                             天川貴之(H.3、法・法律卒) 

第三節  真なる実学の精神の重要性

プラトンに始まり、ヘーゲルに終わる所の「理念」そのものの探究という姿勢と同時に、近代のアメリカを中心に、「プラグマティズム」という実学重視の学問的潮流が現われてまいりました。

理念の探究は高尚であって、それは実社会とかけ離れた所でその探究が進んでいきがちでありますけれども、このプラグマティズムの考え方を導入することによって、学問の真理を真に応用し、理念を応用し、実社会へと生かし、実社会への有益性を高め、実社会との密接な連関関係を持ちながら、具体的に実社会を変革してゆく原動力となってゆくという思想であり、これは非常に大切なものではないかと思います。

アメリカの産学共同などの、学問を本当の意味で成功させている源は、この実学の精神にあるのであり、アメリカなどでは、学問と実社会というものは相互作用し合って、お互いに個性を持ちながらも、お互いを生かし合い、そして、実社会に役に立つ学問というものが、常識となっております。

日本においても、福沢諭吉以来、実学の精神というものが尊ばれ、実学の精神の下に学問の応用と社会的有益性というものを高める考え方が出ておりますけれども、これは、新時代に向けて、更に具現化されてゆくものであろうと思います。

現代社会におきましては、特に情報革命と言われるがごとく、情報化社会が革命的に進展し、社会の基盤を大きく変革してゆくものとなっているが故に、この情報分野の中に特に応用されてゆくことが必要であり、また、そのような社会に役に立つ有用な学問を学生も心得てゆくことが、実社会に出るに当たっての条件となってゆくのではないかと思います。

その意味において、語学であるとか、情報的なものであるとか、そうした様々なコミュニケーションの手段を真に磨き、社会的実用性を学問的有用性の観点から身に付けてゆくということは、日本のこれからの学問を考えるに当たって大切な観点ではないかと思います。

第四節  新時代の大学生に要請されるもの ~「理念と実学」両者の探究と徳学の修養~

しかし同時に、学生の学生たる本分は真理の探究にあり、深き教養の蓄積にあり、幅広き教養の蓄積にあり、様々な古今東西の叡智を通して己を磨き、己を開墾し、そして、人生の根を培う所にありますから、学生時代において、深い、広い、高い教養を様々な面から育むことは大切であり、その意味において、総合理念という学際領域において学ぶことも大切ではないかと思います。

学生時代は、総合理念に象徴される理念を限りなく学びながら、同時に、総合政策に象徴される所の実学を同時に極めてゆくことが大切ではないかと思います。その両者を極めてゆくことが、実社会に出てから、本当の意味においてリーダーとして世の中で役に立つ上で、大切な観点であろうかと思います。

実用性の学問のみを修めている学生は、人間的な深い所において真に自己を修めているとも言えず、真に世界観、人生観を獲得しているとも言えない所があり、実社会に出て、本当のリーダーとなってゆくに際しての必要な教養というものは、学生時代の間から培っておく必要があろうかと思いますので、この実学と理念の探究という、この両者を学生の本分にしていただき、そして、それを大学時代に自然に尊重し、学んでゆくような環境を整えてゆくことが、新時代の理想的な大学像ではないかと思うわけであります。

そして、大学というものの中に求められてゆくものは、限りなく「徳」を磨いてゆく精神態度ではないかと思います。現在、大学はレジャーランド化しているといわれますけれども、大学というものは、ただ単に知識を衒う場所であってはならず、また、遊び場所であってはならず、良く学び良く遊べといわれるがごとく、高度な知識欲と、そして、様々な人生経験と交友関係を築くとともに、また、青春を謳歌するとともに、何よりも、徳というものを根本に据えて人徳を磨いてゆく精神態度が必要ではないかと思います。

青春の青春たる所以は、限りなき志と限りなく徳を磨いてゆく、そのような純粋なる理想の中にあるのではないかと思います。ですから、まず、志を学生の間に立て、そして、自らの人徳を磨いてゆくという意味における学問を、学生の間になしていっていただきたいと思います。もちろん、それが始まりとなって、実社会の中でも活きてゆき、それは続いてゆくものでありましょうが、鉄は熱い内に打てといわれるがごとく、学生の間から、この徳学を真に修めている方と、修めていない方とでは、多くの開きが出てくるように思います。

~つづく~

拙著『新生日本のビジョン』第三部・文化編より

(JDR総合研究所:代表)

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