天川13 )新時代の詩人に寄せて・・・24号

                                     「新時代の詩人によせて」

 

天川貴之(91、法・法律 卒)

詩はどこから生まれてくるのであろうか。かつてギリシャの人々は、詩というものは、ミューズという天の聖霊に授けられるものであると謳っているが、おそらくはその通りなのであろう。

ギリシャの時代に居たミューズは現代においてもいるのではあろうが、現代に神秘的な美しい旋律を響かせる詩人が少ないように思えるのは何故であろうか。やはり、あまりにも神秘的なるものに対して心を解放する悦びを、現代人は忘れ去って久しいのかもしれない。

古代の人々は、非常に素朴で透明な心を持っていたのだろう。だから、目に見えぬ天の聖霊達の姿を敏感に感じとり、かかる存在を通して、美の世界をかいま見る幸福を最上の悦びとしていたにちがいない。

実際に、古代ギリシャの詩的陶酔ほど文化的に香り高いものは、現代芸術にはあまり感じない。

私達は、あまりにも心を小さくし、複雑にし、狭くしてしまったのかもしれない。本当は、大自然の中で、大らかに美しい心情を発露させながら生きるということは、ごく簡単ではあるが、最も崇高な生き方なのではないだろうか。

現代人の心をもし絵に描くことが出来たならば、きっと、ビルディングの形や、事務所机の形をしているにちがいない。

それに比べて、ギリシャの詩人達の心は、きっと、あのエーゲの海のように広く、透明なブルーをたたえていたのであろう。あのアクロポリスの丘の神殿のように、白く、清く、そして雄大にそびえ立っていたのであろう。

ギリシャというのは、何故に、何千年も後の人々にさえ、その神秘の憧れを感じさせるのであろう。例えば、現代のこの日本の姿を、これより数千年後まで現代人は誇りに思い、永遠の憧れと感動を抱きつづけることが出来るのであろうか。

この、本来美しい日本の国において、もしも、かつてのギリシャによせる詩情のようなものが湧き出づることがなかったならば、それは誰の責任でもない、現代の日本人自身の責任である。

美しい生活、美しい人生、かかる生き方を忘れ去って久しいのは、日本人が「日本の心」というものを忘れた所から発するような気がしてならない。

この日本という国は、古来より「美し国」と呼ばれ、「言霊の幸ふ国」と呼ばれてきたのである。そして、連綿たる和歌の伝統というものがあり、数千年の歴史を経て、国民一同が歌を通して一つの心にまとまり、永遠の美しさ、大和の心というものを追求してきたのである。

思いを巡らせれば、万葉の時代に生きた人々は、やはり、どこか、ギリシャの時代に生きた人々と似ている。大らかに、自らの魂の声を、心の内に響く音楽を、言霊に乗せて詩にしてきた。

おそらくは、言霊という言葉にも象徴されているように、万葉の人々にとっては、まさしく歌とは天の聖霊より与えられるものであり、それ故に、崇高なる精神の美しさを体現したものであったのであろうと思う。

このように、本来の詩の本質には、限りなく人間の心情を謳いながらも、人間の枠を越えた何か永遠の神秘を感じさせるものがあるのである。

そもそも、言葉そのものが、それ自体、本来神秘的なる存在であり、我々が精神と呼んでいるものと離れては考えられないものなのである。

その意味で、詩人とは、本来、神秘の詩を用いて、自然の聖霊と交流する存在なのである。人間の本質に真・善・美という理念があるとするならば、まさしく詩人は、美の理念の旋律を直接把握することを使命としているのである。

本当は、この世には、到る所に美しい聖なる旋律が満ち満ちているのである。しかし、誰もその旋律に気づかず、その旋律を味わうこともなく、時を過ごしているだけなのである。

現代の社会においても、本当は、到る所に美の聖霊達が天上の輪舞をして、我々を招いているのである。しかし、いくら天使達が我々に天上の音楽を奏し、天上の華を降らせ、天上の夢をくり広げても、誰もそのことに気づかないだけなのである。

だから、私は、あえて心貧しきあわれなる現代の人々のために、真なる詩人達が数多く出現することを望むのである。複雑な現代社会においても、その心に屈託なく、素朴で、清らかで、美しい感情に満たされている詩人の出現を待ち望むのである。

かかる詩人は、現代においても、多くの美の天使達を観るであろう。そして、私達に、この世のものとは思えぬほどの美しい詩をもって、私達の魂を覚醒してくださるにちがいない。

おお、美しいミューズ達よ、この天上の神々の火花をもって、この地上を本来の美しき光で照らしておくれ。あなたのそのやさしい眼差しを、一度でもいいから、それを忘れ去って久しい現代の人々にかいま見させてあげてほしい。

本当の美しさを思い出せない数多くの迷い子達のために、そのやわらかなる笛の音色でもって、本当の心の故郷へと導いてほしい。生まれるとともに忘れ、時折心をかすめ、涙を誘いながらすぐさま消えてしまう、あの永遠の美の世界へと、多くの現代人の心を回帰させてほしい。

おお、美のミューズ達よ、あなた方は、現代という時代に美しく咲く神々の華である。

(天川貴之:JDR総合研究所代表・哲学者)

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