万葉の花々(29)~秋の七草:オミナエシ
万葉の花々(29)~秋の七草:オミナエシ(をみなえし:女郎花)
手に取れば 袖さへにほふ をみなえし
この白露に 散らまく惜しも 作者不詳 巻10ー2115
(現代語訳:袖までもが黄色に染まってしまうような美しい女郎花(おみなえし)が、この白露で散ってしまうのは惜しいなあ)
女郎花は細くて弱々しく見えるが、見かけとは違い茎は硬い。花も長い間咲き続け、全体に丈夫でしっかりしている。また、粒々の黄花を粟飯(あわめし)に見立てて「女飯(おみなめし)とも呼ばれることもある。(語源等は下記参考資料を参照ください。)仲間の白色花の「男郎花(おとこえし)と同様に、若葉をあえ物などの食用に、根は腫物や解毒・利尿などの薬用に使われる。
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《参考資料》
オミナエシ(女郎花、学名:Patrinia scabiosifolia)は、秋の七草の一つとして、日本では古くから親しまれている。別名は、敗醤(はいしょう)ともいう。
1)名称
*女郎花の語源・由来
オミナエシの「オミナ(女郎)」は、美しい女性の意味で、『万葉集』では「女郎」のほか、オミナに「佳人」「美人」「娘子」「娘」「姫」などの字が使われている。
オミナエシの「エシ」には、動詞「ヘス(圧す)」の連用形とする説と、推量の「ベシ」とする説がある。
「ヘス」の連用形とすれば「美女をも圧倒する美しい花」の意味、推量の「ベシ」とすれば「女らしい花」の意味となる。女郎花の歴史的仮名遣いは「ヲミナヘシ」で、鎌倉時代頃から「ヲミナベシ」が見られるようになるため、「ヘス」の説が妥当である。
ただし、「ヘシ」と書いて発音は「ベシ」だったとの見方もあり、それが正しかった場合は推量「ベシ」の説も考えられる。
その他、女郎花の語源には「女飯」に由来する俗説もある。
それは、白いもち米の飯を男性が食べていたことから「男飯(おとこめし)」、黄色い粟飯を女性が食べていたことから「女飯(おみなめし)」と呼んでおり、黄色い粟飯と女郎花の花が似ていることから、この植物を「オミナメシ」と呼ぶようになり、変化して「オミナエシ」になったというもの。
しかし、「ヲミナメシ(オミナメシ)」が見られるようになるのは室町時代からである。
女郎花の語源が「女飯」とすれば、奈良時代に「ヲミナヘシ」、鎌倉時代に「ヲミナベシ」と呼ばれていた植物名が一度消滅し、室町時代に全く新しい形で「ヲミナメシ(オミナメシ)」という名前が誕生したことになるため、この説をあまり考慮することはできない。
和名の由来は、同属で姿がよく似ている白花のオトコエシ(男郎花)に対する「女郎花」で、全体にやさしい感じがするところから名付けられたとされるのが一般的。漢字で「女郎花」と書くが、これは漢名ではなく、日本では「敗醤」を当てていた。花を室内に挿しておくと、やがて醤油の腐敗したような匂いになっていくことに由来する。漢名(中国植物名)は、黄花竜牙。
2)花言葉:「優しさ」「親切」「美人」
3)特徴
日当たりの良い山野の草地や林縁に自生している。近年では数が減りつつあり、人里近くで野生のものを見かけることは少なくなっている。
花期は夏から秋にかけて(8 – 10月)、茎の上部で分枝して、花茎の先端に黄色い小花を平らな散房状に多数咲かせる。
日本では万葉の昔から愛好され、前栽、切花などに用いられてきた。漢方にも用いられる。
4)生薬
10月頃に地上部の茎葉を切り除いて根を掘り、天日乾燥させたものは生薬となり、敗醤根(はいじょうこん)と呼んでいる。消炎、排膿、浄血作用があり、婦人病に用いられる。
また、花のみを集めたものを黄屈花(おうくつか)という。これらは生薬として単味で利用されることが多く、あまり漢方薬(漢方方剤)としては使われない(漢方薬としてはヨク苡仁、附子と共に調合したヨク苡附子敗醤散が知られる)。
5)文学
奈良時代に編纂された『万葉集』に山上憶良が詠んだ秋の七草に登場する。「萩の花尾花 葛花 瞿麦の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花」(万葉集・巻八 1538)である。また、作者不詳で「手に取れば袖さへにほふ女郎花この白露に散らまく惜しも」(万葉集・巻十 2115)とも詠まれている。
*平安時代の紫式部『源氏物語』では歌の言葉、前栽の花や襲色目の名として何箇所にも出てくる。
- 「女郎花しほるゝ野辺をいづことて一夜ばかりの宿を借りけむ」(夕霧の巻)
- 「ほど近き法の御山をたのみたる女郎花かと見ゆるなりけれ 晶子」(与謝野晶子の『源氏物語』訳「手習」より)
*能の演目に『女郎花』という曲がある。読みは「おみなめし」。小野頼風とその妻の話。頼風に捨てられたと誤解した妻が放生川に飛び込んで自殺。妻を墓に埋めると、残っていた山吹襲(やまぶきさがね)の衣が朽ち果て、そこから山吹色をした一輪の女郎花が生える。頼風がその女郎花に近づくと、まるで頼風を拒絶するかのように女郎花が風で逃げ、頼風が離れるとまた元に戻った。それを見た頼風は死んだ妻が自分を拒絶しているのだと思い、妻と同じ川に飛び込んで自殺する。
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ソフィア