奥村一彦(22)~「私の好きな諭吉の文章22」・・・44号

      「私の好きな諭吉の文章」(22) 

                                奥村一彦(80年経済卒)

 

「一身独立して一国独立す」の持つアポリア

1 問題の発端

以前に(「私の好きな諭吉の文章」(6))、福澤の抱えている矛盾について下記のように書きました。

「福沢の主張する一人の人間が本来独立している姿というのは、隣人と争うことなど予定していないのに、家族など集団となると、その集団の独立は、一人一人の人間の独立心があってはじめて集団の独立を願うことになるのであるが、それは一人の人間の独立とは矛盾するところの自己の生命を賭しても他人と争うことになるという矛盾です。」

私は、一身独立することと、その人が文明人になれば、いったいどのような経路を通過して一国独立の精神を宿すようになり、かつ、究極的には財産生命をも擲(なげう)つようになるのか、その間の媒介になるものは何だろうとずっと問題意識をもっていました。

また今偶然にも、仕事上で、天皇が即位後行う大嘗祭は天皇の私費で行われない限り、日本国憲法の政教分離原則違反となるのではないかとの議論をしています。その途上で、私独自の観点で、戦前の国体派憲法学者穂積八束、上杉慎一系統の大日本帝国憲法の解釈では「君=国」であり、究極的には「忠君」と「愛国」が融合する形で日本人を戦争に疾駆させることになったが、一方、「一身独立して一国独立す」の精神が貫徹したなら、どこかで日本国の破滅を回避することができたのではないかとずっとその時点を探しておりました。

しかし、もちろん権力を有する側の力は強いので、個を育てる発想は、いずれこの国では挫折せざるを得なかったことは間違いないのですが、福澤が生きている時代に大日本帝国憲法は発布されたし(1889年)、教育勅語も渙発されたので(1890年)、福澤はそれらに対し自覚的に対応していたはずだと考えておりました。

そのような折り、先日(11月12日)、福澤諭吉協会で読書会が開催され、平石直昭先生がご著書である『福澤諭吉と丸山真男』をベースにもう一方の河野有理先生とやりとりをしました、その中で、すでにこれまでの大学者の間では周知のことになっていた『文明論の概略』(明治7年より執筆)の第9章と第10章の間には断絶があり、福澤は対外戦争(貿易も含む)に直面して、かつて否定したところの封建的身分から来る忠誠心を、形を変えて再利用しようとしていた、との論に接することになり、大変な刺激とショックを受けました。

 

2 問題の所在

では、福澤は、内にいてこそ一身の独立は棄てなかったが、対外危機に際してはこれを一旦脇へ置き、かつての封建的紐帯である主君に使える忠誠心を、一国独立に用いたというのは事実か、仮に事実として、どう変容させて利用したのか、それにはリスクがなかったのか、このようなことが問題となると考えます。

 

3 問題へのアプローチの現状

そこで、上記のように自ら問題提起をして、以下の参考文献を読み進めており、また読み進める予定を書いておきます。そして何らかの自分の解を見つけることができるようその経過を書き綴りたいと思います。

(当面取り組む文献)

『福澤諭吉』(遠山茂樹著。UP選書)。まだ半分までです。改めて読むと福澤を帝国主義者などとのレッテル張りをしている点を除けば、非常に深いです。

 

『福澤諭吉年鑑22』(福澤諭吉協会)所収「福澤諭吉の日本近代化構想と西欧観・アジア観」飯田泰三著)。読みました。

 

『近代日本の形成と西洋経験』(松沢弘陽著。岩波書店)。未読です。

 

『福澤諭吉と丸山真男』(平石直昭著。北海道大学出版会)一部読みです。

 

『福澤諭吉全集』『福澤諭吉著作集』そしてもちろん全集、著作集の中から、必要部分を全部読みます。憲法発布後の時事新報社説に「日本国会縁起」というシリーズがあるようで、これは図書館で読むしかありません。

 

これだけ挙げただけでも、いかに大先生が取り組んできたかわかるというものです。私如きに何ができようかという劣等感にさいなまれながらも、しかし、今やるしか残された道はないとの悲壮感がただよっています。

次回は、上記の読書から得た考えを一部でも開示したいと思います。

余談ですが、諭吉先生の「第一がはなし・・」というのは、誠に今度の読書会で改めてその喜びを感じ取りました。平石、河野両先生のお話に感謝するとともに、やはり人間が接して話すということの大事さを伝えていきたいと強く思いました。

(続く)

(弁護士・京都第一法律事務所)

 

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