塩野2) 日本の生産性向上と働き方改革・・・(29号)

国連が、「世界幸福度ランキング2018」を発表し、日本は54位であった。156ヵ国を対象に「所得」「健康と寿命」「社会支援」「自由」「信頼」「寛容さ」などの要素を基準にランク付けされ、前年51位から3つ下がった。1位フィンランド、2位ノルウェー、3位デンマーク、4位アイスランド、5位スイスと続き、あとは、15位ドイツ、18位米国、19位英国、23位フランス、26位台湾、57位韓国、59位ロシア、86位中国という結果であった。日本の順位が低いことは、ショッキングであった。
この「所得」に密接な日本の国内総生産 (GDP)は、1997年の536兆円をピークに2011年は460兆円と最低を記録。計数改定のため以前との比較が難しいが、2016年は537兆円であった。つまり日本では、この20年間ほぼ横ばいで大きな成長はない。日本は、2016年の就業者一人の1時間当たり労働生産性は、OECD35ヵ国中、20位。日本は長年、生産性向上に努力してきたにも拘らず、欧州先進国に比べ低い結果である。1位アイルランド、2位ルクセンブルク、3位ノルウェー、4位ベルギー、5位デンマーク、6位米国、7位オランダ、8位ドイツ、9位フランス、10位スイス、16位英国、20位日本、31位韓国。上位の小国は、優遇措置で呼び込んだ外資系企業の巨額売上高が加算され、就業者人口が少ないので、相対的に高い数値になり比較は難しい。日本の推移は、1970年19位、1980年19位、1990年20位、2000年20位、2010年20位とほぼ横ばいである。
次に製造業の名目労働生産性について、日本の順位は、1995年1位、2000年1位、2005年7位、2010年10位、2015年14位と低下傾向である。円建てでは減少せずとも、米ドル為替レートが90円から110円に20円の円安に動くと22%の米ドル換算で減少となる。
労働生産性は、GDP÷就業者人口=就業者1人当たりのGDPで表される。OECD先進諸国に比較し、日本は一人当たりの労働時間が長い。上位に入る国の年間労働時間1,300~1,500時間に比べ、日本は、2017年の平均労働時間は1,721時間である。しかし国際統計において正社員か非正規労働者かの別はなく、日本の正社員一人当たりの労働時間で言えば、最近まで2,000時間を超える水準で漸増傾向にあった。しかし、現在では、働き方改革の一環として労働時間削減に取り組む企業が増えており、今後は減少が予想される。
2016年8月下旬から9月上旬にかけて関西生産性本部の「欧州生産性国際比較トップミッション」に団員として参加し、スイス・ドイツ・フランス3ヵ国を歴訪し、官庁、工業団体、企業を訪問し、実情調査を行った。
これに関しては2016年12月に、『持続的成長へ向けた「生産性革命」への提言~*TFPの観点から新たな生産性向上への取り組みを探る~』として報告書が出され、下記の三つの提言がされている。
提言1:高等教育システムの再構築と人材の高度化。3ヵ国では、高等教育が多くの部分で職業教育に直結している。日本では、企業入社後の社内教育による育成は、各企業固有の事情への対応には秀でていても、他社で通用する真のジェネラリストを育成していない。人材の能力判定の仕組みを形成することが望まれる。
提言2:コンソーシアム等による連携の促進とWin-Win関係の構築。第4次産業革命は、IoTを基礎としたビッグデータ分析やフィンテック等も含め、社会基盤を高度化することによって*TFPの向上を図る方向で展開される必要がある。
提言3:生産性運動の再構築。3ヵ国の生産性向上への取組みを学んだが、実際にどのような要因や事象で生産性が向上するかの把握は十分でない。 われわれは、生産性運動の三原則を再確認し、改めて生産性運動に立ち返り、生産性を再検討することが必要である。今後このような取組みを発信し担い続ける関西生産性本部でなければならない。(詳細は、報告書を参照していただきたい。)
この提言ではふれていないが、訪問によって得られた気づきがある。日本では、おもてなしや得意先からの依頼によるマーケティングサービスはお金がもらえない。しかし、欧州3ヵ国では、顧客の依頼により、人が働いているので人件費・経費を請求するのは当然であり、顧客も当然支払うべきものという考え方が一般的に浸透しているようだ。この金額の総額は相当大きい。日本では欧州3ヵ国と実際には同様のことをしていてもGDPに反映されないものがあることがわかった。日本の物価は安定しているが、給与水準は、決して高くなく、低く抑制されている状態が続いてきた。
顧客の依頼により労力を注いだ提出資料にも、顧客はその支払い義務が生じるというビジネス習慣の改革が必要である。生産性向上には、企業トップのリーダーシップが重要である。無駄な仕事をさせず、就業時間中の労働生産性を高めていく工夫が必要である。始業開始から終業時刻まで効率よく業務をする習慣・風土にしていくことが大切である。そうすれば、社員は自宅に早く帰宅し、家族との時間が多くとれるようになるであろうし、会社は、無駄な残業が減り、経費削減にも繋がる。社会としても個人にゆとりが出てくると空き時間をボランティア活動する人も増えてくるであろう。これこそ「社員良し」、「会社良し」、「社会良し」の「三方良し」である。このような働き方改革が当然必要であろう。

*TFP=Total Factor Productivity 全要素生産性=工学的な技術革新・規模の経済性・経営の革新・労働能力の伸長などで引き起こされる「広義の技術進歩」を表す指標
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        塩 野 秀 作(‘76商学部:塩野香料㈱ 代表取締役社長 大阪慶應倶楽部 副会長)

上記文章は、(公財)関西生産性本部 理事 中堅企業経営委員会 委員長として (公財)関西生産性本部から原稿執筆を依頼され、(公財)関西生産性本部の機関紙KPCNEWS2018秋号Volume48のトップ1ページに掲載されたものです。

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