杉本知瑛子(47号):ヴェルディ『ドン・カルロ』より「世の空しさを知る神」

ヴェルディ『ドン・カルロ』より「世の空しさを知る神」

杉本知瑛子(H.9、文・美(音楽)卒)

詩人フリードリヒ・フォン・シラー(1759-1805)の原作をもとに、フランス語の台本に作曲された「ドン・カルロス」は5幕仕立てで、1867年パリ・オペラ座で初演された。パリのイタリア歌劇の支配人エミール・ペランから新作の歌劇を依頼され、そのため15年ほど前にパリオペラ座の支配人ネストル・ロクプランからすすめられ、わざわざスペインにも旅行して歌劇化を考えたシラーの戯曲『ドン・カルロス』をとりあげた。台本はフランス語でジョセフ・メリーが書いていたが、メリーの死後ペランの秘書で娘婿のカミーユ・デュ・ロークルがそれを引き継いだ。ヴェルディは65年冬から作曲を始めた。

当時のイタリアは、ローマをフランスに、ヴェネツィアをオーストリアに占領され、首都をフィレンツェに移して、国家的に極めて弱体であった。そこに普墺戦争が生じ、イタリアはフランスのすすめでプロシアに味方したが、プロシアは大勝したにもかかわらず、イタリア軍は各地で完敗した。

このような状況下でヴェルディは『ドン・カルロス』をパリのために作曲するのに気が進まず、契約を解除しようとしたがそれも実現せず、それで再びフランスを訪れ1866年秋に全体を仕上げ、オペラは翌年パリで初演された。

指揮者と歌手の不熱心と拙劣さもあり、豪華な招待客にもかかわらず、初演は完全な失敗だった。原因は5幕という長大なことや、ワーグナーをはじめとする外国の作曲家からの影響が強すぎると批評されたことが大きいといえた。具体的な改作は1881年になってからである。5幕は4幕にされ原作の第1幕全体と第2幕のバレエが削られた。第1幕の終りのフィリッポ2世トロドリゴの2重唱の後半は新たに作曲し直されるなどの手が加えられた。

現在上演される場合には、フランス語上演かイタリア語上演か、また5幕版か4幕版か明記されている。イタリアの有名な出版社であるリコルディでは5幕版と4幕版が出版されている。ちなみに私が使用しているリコルディ版は5幕版であるため、ここに転載した歌詞もそれを使った。このシェーナ(場面)&アリアの部分は相当長いので、投稿文には前半と後半に分けて記載することにした。今回はイタリア語の歌詞のみで、日本語訳は次回掲載予定とした。                     (杉本知瑛子)

「たしかに、この作品はワーグナーを、思わせる技法を用いている。その動機の用法、旋律の展開、朗唱風な旋律の愛好、表現力の強い和声、変化に富む管弦楽法などでそういうことがはっきりといえる。しかし、旋律の豊かさ、悲劇的な描写と迫力、その間に挿まれた流れるような抒情性は、まさにヴェルディ独自のものである。さらに、ここでは、重唱あるいは合唱の用法、行進曲の堂々とした扱い方は、これまでのヴェルディの歌劇と比べて格段の進歩を見せ、次の『アイーダ』への段階を予想させる。」(門真直美 著:名曲解説全集14・音楽の友社S.41第6版)

G.Verdi『Don Carlo』より「Tu che le vanità」

Elisabetta [scena ed aria];Ricordi版ATTO QUINTO

Tu che le vanità conoscesti del mondo
e godi nell’avel il riposo profondo,
s’ancor si piange in cielo, piangi sul mio dolore,
e porta il pianto mio al trono del Signor.

Carlo qui verrà!   Si!  che parta e scordi omai…

A Posa di vegliar sui giorni suoi giurai.
Ei segua il suo destin, la gloria il traccierà.
Per me, la mia giornata a sera è giunta già!

Francia, nobile suol, sì caro ai miei verd’anni!

Fontainebleau! ver voi schiude il pensier i vanni.
Eterno giuro d’amor là Dio da me ascoltò,
e quest’eternità un giorno sol durò.

Tra voi, vaghi giardin di questa terra ibéra,
se Carlo ancor dovrà fermar i passi a sera,
che le zolle, i rusceli, i fonti, i boschi, i fior,
con le lor armonie cantino il nostro amor.

Addio,addio, bei sogni d’ôr, illusion perduta!
Il nodo si spezzò, la luce la luce ・・・ è fatta muta!
Addio,addio, verd’anni, ancor! cedendo al duol crudel,
Il cor, il cor ha un sol desir: la pace dell’avel!

Tu che le vanità conoscesti del mondo
e godi nell’avel il riposo profondo,
s’ancor si piange in cielo, piangi sul mio dolore,
e porta il pianto mio altrono del Signor,

ah il pianto mio reca a’ppié del Signor.

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