奥村一彦:52号・私の好きな諭吉の文章27
「私の好きな諭吉の文章」(27)
奥村一彦(80年経済卒)
今回は、これから論文として提出しようとしているテーマの概略(Ⅰ)、次に『文明論の概略』の最終章である第十章の「君臣の義」・・が「本国の義」に転換するそのエネルギーを報国心に何故求めたか(Ⅱ)、と三つ目に私が追っかけしているシンガーソングライターと福澤が結びついた話(Ⅲ)、をしたいと思います。
(Ⅰ)これから論文として形をつけようと思っているテーマは、福澤が言論を用いて社会統治の基礎にしようとして、様々な努力をするその中身と、そしてそれが明治14年の政変で潰えたという歴史です。
福澤を読む人々は、すでにお気づきと思いますが、福澤の書籍は、口述筆記を本にしたもの、口語体を基本にした文章、のふたつの流れがあります。口述したものを筆記して本にした形式は、福翁自伝、福翁百話、福翁百余話、福澤先生浮世談などがあり、その他にも「福澤諭吉述、誰々筆記」なる表記のものもあり、口述を本に転換したものは多いと思います。また、ほとんど文体としての口語体である書籍といえば、はじめから文語体を意識して書かれたもの以外の書籍はすべてそう言えるのではないかと思われます。例えば、『学問のす々め』の冒頭、「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず、といえり」も口語体ですから、後は推して知るべしというところでしょう。文語体となると、漢文調のリズムを強く帯びたもので、例えば私が好きなのは『旧藩情』の「緒言」です。「人の世を渡るはなお舟に乗て海を渡るがごとし。舟中の人もとより舟と共に運動を與にすといえども、動もすれば自から運動の遅速方向に心付かざること多し。ただ岸上より望観する者にして始てその精密なる趣を知るべし。」というリズムのものです。これも完全に文語かと言えばそうでもなく、尽きるところ福澤自身がいう「雅俗めちゃくちゃ体」というべきものでしょう。
さて、福澤が口語表現を徹底にしたのは、世の中のすべてのじじばばを説得する(『唐人往来』)目的をもったところから始まりますが、それは第1に言葉を知識人の独占物にしない、第2に知識を知識人の専用にしない、第3に知識体系を経験から科学に転換するには、合理的説得ができなければならず、そのためには言語をもって社会に生起する事象が説明可能でなければならない、第4に社会を共通言語に基づく理解と知識交換が可能なものにしなければならない、という内実から発しているからだと思います。
これがこれから挑むテーマです。福澤がいかに言論、特に発話を中心に因習的習慣を打ち破り、新知識を普及し、統治の基本が身分ではなく、言論とその交換によるものとするというところまで行ったことを論証します。特に演説館をつくった頃がひとつのピークになるのではと考えます。
(Ⅱ)二つ目は、『文明論の概略』の最終章第十章で、文明から立国へ大きく議論を転換してしまう、その違和感をどう理解したら良いかという問いから発しています。
そこで、突然小幡篤治郎が第十章に登場するのですが、この引用部分が何故必要だったのか、この引用によって第十章の論旨が転換する(と考えるとして)きっかけになっているのかどうかということを分析しようというものです。
引用されている小幡の論旨は、外国の勢力が国同士の同権などと一見普遍的な価値を掲げているにもかかわらず現実には弱肉強食で、弱国である日本は強国に卑屈になっているとその精神を嘆くというものです。そこから、その卑屈を正すにはどうすればよいかという議論を、福澤が展開するのです。
それはそれで、何も福澤の論旨として展開しても良さそうなものですが、何故此の小幡というファクターがあるのか、その挿入の必然性が問われなければならないと思います。
まだ未解明ですが、今思いつくのは、福澤が、封建的精神として否定しなければならない封建的紐帯である「君臣の義」「先祖の由緒」「上下の名分」「本末の差別」を否定するのではなくその働きに注目してむしろ肯定的に利用して、それぞれ「本国の義」「本国の由緒」「内外の名分」「内外の差別」と転換できるというきっかけを提供したのはないかということです。そのきっかけが、表向きの普遍的価値と外国交際の実態の解離は、結局、外国人の裏表のある態度から学びうるもの、すなわち、二重の精神、二律背反する精神を持って良いと結論したところにあるのだろうかと考えます。
(Ⅲ)最後に、私はこの30年間ほど、長谷川きよしさんという盲目のシンガーソングライターのライブに行っております。この長谷川さんが好きなのは桜井順さんの作詞作曲した歌で、「黒の舟歌」と「かなしい兵隊」なのです。「黒の舟歌」は、加藤登紀子さんも野坂昭如さんも歌ったので、有名になっています。この桜井順さんが、小幡篤治郎のひ孫さんにあたるわけです。桜井順さんは、CMソングもたくさん作り、相当ヒットしたのは「ソ、ソ、ソクラテスかプラトンか・・」というサントリーの宣伝ソングで、多くの人が聞いたことあると思います。
私の好きな長谷川きよしさんと福澤諭吉が、桜井順さん小幡篤治郎を経由して繋がるという幸せを、心から喜んでいます。皆さんも、ユーチューブで「長谷川きよし」と「かなしい兵隊」と検索して、聴いて下さい。
以上


