白石5)小話「炭酸電池」・・(29号)

 小話四:「炭酸電池」

                  白石常介(81、商)

山の向こうのそのまた山のふもとの小さな村。山が覆いかぶさり“ヤッホ~ッ”と問いかければ“アッホ~ッ”と応えるほどの~んびりした片田舎。

そんな村にそれはそれはの~んびりした先生がおったと。

また、中学3年で高校受験を控えているのにこちらも超のんびり屋の生徒がおったんだと。

言っとくけんど、それでもちゃんと学校はあったと。

ある夏の日のこと。

「先~生、俺、高校を受験するんだけどさあ、算数が弱くって。毎日家にいると母ちゃんが“勉強しろ、勉強しろ”ってうるさいし。まあ、今は夏休みだから先生んちで少し教えてもらいてえんだけど、だめ?」

「おめえなあ、夏休みはなぜあるかわかるか?暑くて暑くてたまんねえから体を休めるためにあるんだ。頭も体の一部だべ。だったら休めねえといけねえ」

「そりゃあ普通の人間ならそうかもしんねえけんども、俺はずっと休み過ぎちまって脳みそがカビてるんでねえかって」

「だったらカビはお天道様を浴びたらイチコロだべ。丸坊主にして真昼間に帽子をかぶらねえで外に行ってみたらどうだ」

「だけんど、とりあえず俺も受験生なんよ。のんびりしてたらそれこそ受かんねえ」

「だけどよお、“算数”って小学だろ。算数が終わって数学のレベルに行くまでに受験は終わっちまうぞ」

「大丈夫!算数の教科書を逆に読めば数算だろ、数三って高校の教科書さ。早えもんだ」

「数三ってよく知ってるじゃねえか」

「兄貴の教科書があったんだ。もっともさっきゴミ箱ん中で見つけたけど」

「しょうがねえなあ。なら、少し教えてやっか。少しだけだぞ」

「先~生、ありがと」

といっても、先生の家に行くまでにひと山越えなければならなかった。

ではまずどうやって先生に連絡したのか、だって?そりゃあ今はやりの携帯っていう

やつで。えっ、だって、そんな山奥で電波は?

もちろん大丈夫。糸電話式なので...?

もう先生の家...

「こんちわ。先~生おられますでございますでしょうか」

「おっ、早えなあ、さっ、こっちに上がれや。しかしおめえ、算数どころか国語もあんまりできねえだろ」

「当たり!はいっ、アイスもう一本、って、さっき駄菓子屋で買ってアイスをなめながら歩いてきたんだけどさ、これが当たりなんだ、ほらね、もう一本」

「おめえ、いい性格だよ。卒業したら地元の会社に就職した方がいいんでねえか」

「俺も実はそう思ってたんだ。だども親が...世間亭があるからってさ。でもその世間亭って何だい? そんな料亭ここにはねえぞ」

「国語もそうだけど、道徳も必要だな、こりゃあ」

「どう解く? それがわかんねえから先~生に教えてもらいにきたんだ、塩路はるばる汗で塩を吹きながら」

「分かった、分かったからもうこれ以上しゃべるな。

さ~てっと、それじゃあまず算数か、数学か、まあどっちでもいいや。あれっ、計算するからソロバン持ってきたか?」

「先~生、今どきソロバンなんて古すぎるよ。それに買ったことも使ったこともねえし。今は電卓だぜ」

「いやいや、だめだ。母ちゃんは電卓じゃあ踏んづぶしちまうだけで滑って転ばねえ、いや...そうか、じゃあ電卓の電池は入ってるか?」

「先~生、今は電池なんかいらねえんだ。何だっけ、ほらっ、あっ、そうそう、“空~”っていうやつだよ」

「あっ、そうだそうだ、ソーラーってやつだよな。でもありゃあいけねえ、いつ使えなくなるかわからねえ。“あともう少しだけよ、ウッフン”なんてしゃべってくれねえから残りが分からねえ。電池のを用意しといたほうがいいぞ。それも長持ちする単一電池のをな」

「先~生、単一電池を入れるほどでかい電卓なんかねえよ。あっても単三だ」

「おっと、そりゃあいけねえ。炭酸なら覚えるそばからアワになって消えてしまう」

(白石常介:台湾三田会顧問)

 

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