白石 常介(25)~C&Sのひそひそ話集(23)「風呂敷」~・・・43号
CherrieとSweetieのひそひそ話集 その23「風呂敷」
白石 常介(81.商卒)
風呂敷・・・物を包んで収納したり運んだりするための布である。
その起源ははるかかなたの奈良時代にさかのぼり、古くは衣包(ころもつつみ)や平包(ひらつつみ)と呼ばれていた。
「風呂敷」の名称は室町時代になってからである。風呂は蒸し風呂であったので、大名や武士たちが風呂の中で布を敷き、入浴後は足をぬぐい、その上で身づくろいをしたため、その後「風呂に敷く布で包む」ことから風呂敷という言葉ができたようである。
なお、江戸時代には銭湯の普及とともに庶民にも広がり、衣類や入浴道具をこの風呂敷に包んで銭湯に出かけている。
「おいっ、Sweetie、風呂敷って知ってるか」
「もちろんさ、Cherrie。君が頭からすっぽりかぶって鼻の下で結ぶあれだろ」
「それって泥棒じゃねえか」
「君ならぴったり似合うだろうって思たんだけど」
「あのねえ・・・まあいいや、おまえのことは無視してだ。実は風呂敷って何でも包めるんだぜ」
「そうさ、だから、使う前は頭からすっぽりかぶって鼻の下で結んでおいて、金目の物を見つけたらそれですっぽり包み隠してしまうから便利だよね、Cherrie君」
「何でそこに行き着くんだ、ったく。でもな、確かに便利なんだぜ。使わねえときは小さく畳んどいて、いざっていうときはデカく広げればいんだからな」
「特に “夜は使いやすい” ってか」
「おいっ、しまいにゃあ怒るぜ。この温和で虫も殺さねえ品のあるCherrie君でもだ」
「ごめんね、はしゃいでしまって。つい本心でさ」
「わかりゃあいいんだ、わかりゃあ・・・ん?」
「ところで、最近はあまり風呂敷を見なくなったね」
「何かごまかされたようだけど、まあいっか。確かに風呂敷は最近ほとんど見ねえな」
「だろ。西洋風のバッグだとか、ビニール袋だとかが出回ってるし」
「だけどさあ、日本人はやっぱり大和の風情が好きなんだぜ、絶対そうだ。でもな、昨今は生活に追われてゆとりがねえから、そんな悠長なことを言ってらんねえんだよな」
「そうだね。昔は結婚祝いとかお中元なんかの包みとか、おせちや花見弁当や重箱の包みとかさ。いろいろなものに風呂敷は使われてたんだよね」
「今は伝統芸能である芸妓さんとか、ごく少数の人しか使わなくなったもんな」
「でもさ、言葉はまだ使っているようだよ」
「え、どんな?」
「“大風呂敷を広げる” とかさ、君のように」
「そりゃそうだ。何たってデカければデケえほど何でも入るからな」
「いや “できもしない大きな計画をしゃべる” って意味だけど」
「そうなんだ、フムフム、って、ひでえぜ。俺様はそんなことはしねえ」
「えっ?」
「しゃべる前に即実行だもんな、たとえ失敗してもさ」
「失礼いたしました」
「でもさあ、いっくらデケえ風呂敷を広げても包み隠せねえものもあるんだぜ」
「顔を隠しながらどうしたの?」
「いくら顔の表情を包み隠しても隠し通せねえもの・・・人の性格ってやつさ」
「まさに!」
(白石常介:著述業)