白石16 )介護と共に(3)・・・27号

     介 護 と と も に (3)

(安心して暮らせる社会へ)

白石 常介(81、商)

(12)要介護期間 

日本人の一般的な要介護期間は以下の式で表すこともできる。

平均寿命-健康寿命(介護なしで日常生活を送れる年齢的期限)=要介護期間

そこで、単純に計算すると要介護期間は男女平均で10年前後、つまり、その期間は要

介護状態にあるということである。

「Sweetie、10年って長くねえか? 誰かが介護しなきゃあならねえ期間だろ? もし老老介護や認認介護だったらもっと大変じゃねえの」

「そうさ。だから次で説明するよ」

(13)老老介護、認認介護

  老老介護とは、65歳以上(基準)の高齢者が同じく65歳以上の高齢者を介護することで

ある(高齢の夫を高齢の妻が介護、65歳以上の子供がより高齢の親を介護、など)。

日本では全体の約60%が核家族(夫婦のみの世帯、夫婦と未婚の子供の世帯、ひとり親世

帯などで構成されている家族)であり、そのうちの約30%が夫婦のみで暮らしている。

そこで65歳以上の高齢者夫婦のみのどちらかが要介護者になり配偶者以外に介護してく

れる人がいないと老老介護になってしまう。

老老介護では肉体的な負担はもちろんのこと、精神的負担も相当あり、ストレスによる

要介護者への虐待行為にもつながりかねず、また共倒れ状態になることも考えられる。

現在の一般的な老老介護世代は、他人の支援に負い目を感じる、他人への警戒心、入浴

や排せつなどの微妙な部分への抵抗、などの傾向がある。

金銭的余裕がないなどの場合も老老介護に陥りやすく、わずかな年金でお互いに介護生活

を送らざるを得ないことになってしまう。

認認介護とは、認知症の要介護者を同居している認知症の介護者が介護することである。

これは事故が起きやすい介護状況のひとつであり、例えば老老介護がやがて周囲から孤立

して認認介護になることも十分に考えられる。

認認介護では、記憶障害、判断力不足、認識力の低下による生活環境維持の困難や、火の

不始末による火事、詐欺の標的、徘徊中の事故など、各種問題が起こりやすい。

介護保険制度の上手な利用とともに、健康維持など肉体的負担に備えることも大切である。

「Sweetie君、これはまさに由々しき容易ならぬ困難な限界的挑戦的発奮的非人間的非現実逃避的、え~っ...」

「Cherrie、君はときどき発作を起こすようだけど、何が言いたいの?」

「分かってほしいぜ、俺の頭の中を」

「“カラ、カラ、空~ん”、君の頭を揺すった音、でしょ?」

「言ってくれるじゃねえか。じゃあお前の頭の音は?」

「“ズシ、ズシ、ズッシ~ン”、重すぎる音さ」

「重すぎて水の中で溺れたら!

まあ、2050年には人口の40%が65歳以上になるんだろ、単純に考えたらさ。そのうえ核家族化がどんどん進んでったらどうするんだ。それに現役労働者の1人が1人の高齢者を支えていくかも。これってどうする?」

「難しいことはいつまでも先送りしないで、今、ここで解決策をまじめに考えないと大変なことになるよね」

「そうさ。大きな方向性を決めるのは政府の仕事だろ。だったら選挙で勝つにはどうしたらいいか、何てことよりももっともっと重要なことがあるんじゃねえか。政府は何考えてるんだ、ったく。そうしねえとセーフじゃあねえアウトだぞ!」

「同感!」

(14)介護ロボット

介護ロボットとは、ごく一般的には人型ロボットのようなものではなく、例えば高齢者自

らの足の歩行を支援する移動支援機器や浴槽に入る際の一連の動作を支援する入浴支援

機器などのような技術を搭載した機器のことをいう。

介護ロボットが量産され入手しやすい価格にならなければ家庭への普及は難しいが、急

速に各種開発が進んでいる。

なお、一部ではコミュニケーションロボットも実用化に向けて開発されている。

「Sweetie、介護ロボットって食事も作ってくれるのか?

“カチャッ カチャッ カチャッ ゴシュジンサマ オナカガスキマシタデスカ?”

“うん、もう腹ペコだよ!”

“ワカリマシタ シバラクオマチクダサイ シキュウリョウリイタシマス”

“早く頼むよ。で、今日は何の料理?”

“ゴシュジンサマノアゴヲキタエルタメニ キョウハ スコシカタメノテッパンデス 

アゴガハズレナイヨウ キヲツケテクダサイネ” なんちゃって

「あのね、Cherrie、介護ロボットっていっても、今はまだ一般的には人型ロボットじゃあないんだ」

「あっそ。でも、でもだぜ。人型ロボットが家にいれば高齢者はかなり楽になるんじゃねえの」

「もちろんその通り。でもね、人型ロボットより前に介護ロボットが量産されて入手しやすい価格になればまず家庭に普及すると思うよ。そのあとで人型ロボットが出てくるんだろうね。

急速に各種開発が進んでいるから、まずは在宅介護で介護ロボットが活躍する日はもうすぐじゃあないのかな。次に人型ロボット。何事も順番にね」

「そうなんだ...あっ、思い出した。“介護職員の現場での負担増はそのままサービスの低下につながるため、ロボット技術の開発は介護職員の人材不足を補いサービス向上の手段としても大いに注目されている” ってどっかで聞いたことがあるけど、そのことなんだな」

「そうだよ」

「じゃあ、 “Sweetie型ロボット” って名前のロボットはどう? すっげえ活躍するぜ」

「何するの、それ?」

「文句を言わずトイレの掃除だけするロボットさ」

「...じゃあ今度は “Cherrie型ロボット” ね」

「えっ?」

「怒られたときに両手をついて “ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。もうしません” って謝ってばかりいるロボット」

「...」

(15)介護関連発生問題等

①介護事業所入居時

入居契約の際は、介護事業者がどのようなサービスを提供するのか、入居後はどのような生活をするのか、どのような問題が起こるリスクがあるのかなど、入念な説明が必要である。

なお、例えば有料老人ホームのほとんどは入居時に入居一時金や終身利用権確保のための支払いなどが必要になるが、入居後の解約時に返還金の支払いに関するトラブルがかなり多いようである。

「Sweetie、お金のことは大事だから、しっかりとわかっとかなきゃあならねえぜ。どんなときでもお金に関してはいつも問題になるからな」

「Cherrie、君はほんとにお金は大事だってことがわかってるの? だって、何か欲しい時はいつも僕にねだるから」

「それは誤解だ、Sweetie。だってさあ、俺たちはお金よりも信頼関係の方が超大切だぜ、そうだろ?」

「だから?」

「だから、いつも先にお伺いを立てるんだ、“あれは超うまそうだなぁ、なあ、Sweetie”って!

俺にとってお金を出して買うことは超簡単だぜ。だけど、それじゃあ信頼関係が崩れっちまうからな」

「説明になってないんですけど」

「詳しく説明すると理解に苦しむだろうからこの辺でもうやめとく。まったく世話の焼けるSweetieだ。

え~っ、それ以上にさあ、もっと大切なのは介護のサービスには限界もあるってこと、これを事前に話しとかねえといけねえな」

「何だかごまかされちゃったようだけど、まあいいや。

介護事業所に入れば何でも面倒を見てもらえるって考える人が多いけど、君の言う通り限界はあるから、その辺はしっかりと理解しておいてもらわないとね。それに、どれもこれも重要なものばかりだけど、それらはまず文章にしてしっかり契約書中に表示しておくことと、それをただ渡すだけじゃあなくって、家族も含めた利用者の皆さんに十分説明し理解してもらうことが大切なんだよね。後で誤解されないようにさ」

 ②ヒヤリ・ハット

ヒヤリ・ハットとは、危険な目に遭いそうになって、“冷やり”としたり“ハッと”したりすることであるが、これに関しては労働災害の発生確率を分析して発表した有名な“ハインリッヒの法則”、つまり、“1:29:300の法則”と呼ばれるものがある。

これは、1件の重大事故が起こるときは29件の軽微な事故があり、その29件の軽微な事故が起こるときは300件のヒヤリ・ハットの場面がある、というものである。

介護職員の起こすミスには、判断ミス(その場の対応を誤る)、予測ミス(時間の予測を誤る)、操作ミス(車椅子などの操作を誤る)などがあるが、過去にあったヒヤリ・ハットの関係者全員での共有化が必要である。

また、万一法律上の損害賠償責任を負う場合、その賠償金を補償する保険が介護事業者損害保険であり、必ず入っておくべきである。

「Sweetie、人間である以上、ミスはつきものだろ? だったら、まずヒヤリ・ハットの共有化でトラブルの可能性のあるケースを覚えてもらうってことは当然必要だよな。

でもさあ、それだけじゃあ足りねえぜ。もし起こったらどう対処するか、そっちも重要なんじゃあねえの?」

「そうだよ、Cherrie。それにトラブルの原因は事業者側にある場合も利用者側にある場合もあるからね。でも、どんな場合であっても、まずは即対応することだよ。

重大事故なんかのときはもちろん救命のための緊急対応が最優先で、その次に家族などへの連絡、市町村への連絡、ケアマネジャ-への連絡など、いろいろ対応しなければね」

「事実の通りに連絡するのか?」

「もちろんさ。逆に自分の考えなんかを入れた主観的な対応をしてしまうと事実が間違って伝わっちゃうかもしれないから。

それに利用者の家族に対しては誠意ある対応がまず必要になるよね。下手な言い訳なんかしないで」

「でもさあ、誠意ある対応をしても家族が納得しなかったら?」

「その場合は交渉の専門家である弁護士に相談した方がいいね」

③物損事故

もし誤って利用者の物品を破損してしまったりしたら、まず利用者に対して誠意ある謝罪

をし、家族や事業所にも報告することが大切である。

後から物品破損などが分かったときには、事実隠匿が疑われたり事業所自体が信用を落と

しかねなくなってしまう。

「あのさあSweetie、例えば、例えばだぜ、ほんと~に例えばだぜ。もしも俺様が認知症の人の部屋に行ったとしてだ、“机の上のおまんじゅうおいしいよ、お食べ、Cherrie君” って言われたら、当然頂いちゃうぜ。

でもさあ、その人が物忘れがひどくて、後で “あっ、机の上のおまんじゅうがない。誰か食べた!” な~んて言われたら困っちまうぜ。だってさあ、もう既に俺様の腹の中だもん」

「そのときは生つばをゴックンって飲んで我慢することだね。だって、その人が認知症であることがわかっていたのなら、事前の情報に基づいて対応を考慮しないとね...でも、“もう既に” って?

偶然その部屋をのぞいたらおいしいものが目に入ったんで “コンコンッ、あっ、初めまして。お元気ですか? え~っ、お若いんですねえ。あっ、机の上においしそ~なおまんじゅうがありますけど、甘い物も普通に食べられるんですか。すごいですねぇ。でもあまり食べ過ぎは体によくないんですよ。特に甘~いものはあまり食べてはいけないんですよ~っ。それでは体をお大事になさってください。くれぐれも甘いものはあまり食べないで誰かにあげてくださいね” な~んて言わなかっただろうねえ、実際に、Cherrie?」

「えっ、えっ、みっ、見てたの? 一言一句、み~んなピンポ~ンだ。すげえぜ、まったく」

「長年一緒だからね。そして食べた後は “これって内緒にしておいてくださいね” だろ?」

「(赤面)...」(もっとも、黒い毛で顔が覆われているため分からないが)

「でも隠すのはいけないんだよ、後で問題になったときほど対応が大変になるからね」

「おっしゃる通りで、はい...以後、気を付けますです」

④さまざまな相談への対応の有無

介護職員は利用者の日常に深く関われば関わるほどさまざまな相談を受けることが多く

なる。信頼関係を構築することに関してはよいのであるが、過度な相談は介護職員の負担

になるばかりでなく、深刻な相談も受けることになってしまうこともある。

よって利用者の個人的な問題に関しては過度に深入りすることは避けるべきであり、対応

を迷った場合にはひとりで悩まず上司に相談すべきである。また、事務所としての体制作

りも必要である。

「あのさあ、Sweetie、俺様の問題解決能力はすげえってことわかるよな。特に...」

「食べ物関連はパーフェクト、それ以外は頭パ-フェクト。ほかに何かご質問は?」

「...ございません」

⑤高齢者虐待

介護者の介護疲れや社会からの孤立や生活苦などから虐待とみなされる行為をしてしま

う可能性があるが、本人自身が虐待をしている自覚があるかというと必ずしもそうとは限

らず、また、介護を受ける者も虐待をされているという認識がない場合もある。

ところで、高齢者虐待は身体的虐待だけではない。人間としての尊厳を傷つける行為はみ

な虐待といえる。

・身体的虐待(殴る、蹴る、など)

・心理的虐待(脅し、侮辱、など)

・性的虐待(あらゆる形態の性的行為・強要)

・経済的虐待(本人の合意なしに財産等を使用、など)

・介護の放棄・放任(おねしょがひどいから水を飲ませない、など)

虐待は周囲になかなか気付かれにくい場合が多いので注意を要する。

介護事業所においては、職員の負担が偏っていないか、職員の悩みを気軽に聞いてくれ

る体制が整っているかなど、組織風土の整備・改善が必要である。

ちなみに、介護事業所において身体拘束が認められるのは緊急性がありやむを得ない場合

である。つまり、切迫性(状況が切羽詰まっている)、非代替性(代わりの手段がない)、

一時性(一時的な対応)のすべてを満たす場合である。

その際は事業所全体としての判断であること、利用者本人や家族への事前説明をすること、

身体拘束の状況などを記録しておくことなどが必要である。

ところで、高齢者虐待は介護事業所のみで発生する問題ではなく、家庭などでも起こりや

すいが、それに気が付かないことが多い。

「“お父さん、どこ行くの?”、 “玄関のカギを閉めたかどうか見に行くんだ”、 “え~っ、さっき見に行ったばかりでしょ”、 “そんなことねえよ”、 “もう閉めてあるから大丈夫です!”...“あれっ、お父さんは? トイレ?”、 “トイレにはいないよ”、 “えっ、じゃあまた玄関?”...“何してるの、お父さん?”、“カギを閉めなきゃあ”、 “何度言ったら分かるの、もうとっくに閉めた! まったくもう頭がおかしくてどうしようもないんだから”...って、これどう思う、Sweetie?」

「これって最近は普通にある光景だよね、Cherrie」

「そうさ。でもこれって介護者の対応を見直すべきだと思わねえか」

「思う、同感。まずは何といっても介護される人の尊厳を守ってやるべきなんだよね」

「そうさ。だからけなすことより、まず褒めることをしないとな。この場合は、“まったくもう頭がおかしくてどうしようもないんだから” って頭っからけなさねえで、“夜だから玄関のカギを閉めることをしっかり覚えてるんだね。そうだよ、閉めなきゃあね。でも今日はもう閉めたから大丈夫だよ” って優しく言ってやればいいんだ。本人だって物忘れをしたくて忘れてるわけじゃあねえんだし。人間、ちょっとでも褒められればうれしいもんだぜ」

「今日のCherrieは頭がさえてるね。その通りだよ。まず褒めることからした方がいいに決まってるよ。

だけど、だけどなんだ。いつもいつも同じことを繰り返されていると、いいかげんストレスがたまってきて結果としてそれがあるとき爆発するんだよね。そのしかたはいろいろあるけど、最悪の場合には刃物を持ってきたりとかさ。

ニュースでも時々事件として出るけど、例えば人をあやめるときって加害者がいつも悪者扱いされるよね。結果としてあやめることは当然よいことじゃあないよ。だけど、あやめるときだって絶対に理由があるんだ、その理由が何であるかは別にして。

介護で疲れてしまって、つい...何ていうニュースはよく聞くよね。これは別の見方をすれば、そういう状況を作り出してそのままにしてしまっている制度にも問題があるんじゃあないかなあ」

「“介護保険制度を作りました!” 何ていっても実情とはかなり懸け離れてる規定もあるんだろ? もっと現実に沿うような法制度作りをしねえと実際に使えねえよな」

「制度作りって大変だけど、現場の意見を十分聞いて状況を理解したうえで文章化してあげないとね」

⑥苦情処理

    利用者から上がってくる苦情への対応は直接介護職員個人に任せるのではなく、組織と

して対応する必要がある。これは表面上の苦情はそのごく一部に過ぎず、問題がうやむや

になってしまって上がってこないケースが大変多いからである。

そこで、実際に問題になっているケースについては事実関係を十分注意しながら把握し、

まずは隠匿せず誠実な対応を心掛け、もし不合理なものであれば事業所として毅然とした

態度を示すことも必要である。

また、再発防止のためにもそれらの経験値を整備しておくことも必要である。

なお、苦情については、サービスを受けている介護事業所などに直接訴えることのほかに、

ケアマネジャ-や市町村の窓口を通して申し出ることも当然できる。

「Sweetie、苦情を言うときって絶対、頭の中はカッカしてるんだよな。

“あの~っ、おひとつ苦情を言わせていただきたいのですが、いかがでございましょうか” なんてあり得ねえな。“何だこりゃあ、ふざけんじゃねえぞ~、おいっ、聞いてんのか、あほんだらっ” かな」

「あのねえ、Cherrie、君のは両極端過ぎるよ。

でもね、苦情を言うときは、何とかしてほしいと思っている不安感が怒りに転じているときなんじゃあないの。だからそんなときはね、話をさえぎったり、言い訳をしたり、笑ってごまかしたり、人のせいにしたりしないで、相手が冷静になるまで原因は分からなくてもまず相手の話に耳を傾けながら共感することが大事かな」

「“はいはい~っ” とか、“まさにその通~り” とか、“そうなんだよね~っ” とか?」

「なんだか軽々しく言ってない? バカにしているみたいで、それじゃあかえって怒らせてしまうよ。

それに言われたことが常に事実であるかどうかはわからないから、まずはよく聞いて、その後で訴えていることが事実であるかどうかを確認することも必要だよね」

「そうか。誤解してるときもあるし、いやがらせで苦情を言ってくることだってあるよな」

「そうなんだ。だから苦情処理は最初の対応を間違うと火に油を注ぐことになってしまうかもしれないから、よく注意しないとね」

「だけど、苦情を言ってくれる人ってありがてえと思わねえか。だって、実際どんな問題が起こってるかを教えてくれてさあ、それを改善するチャンスまでくれるんだからな」

「そうだよね。何も言ってくれなければ、まず何が起こっているのか通常は分からないものね」

⑦利用者間のトラブル

通常の判断能力を有している利用者は介護職員の行動をよく見ているため、ちょっとした

対応の差でも妬みやしっとを生じ、その結果がクレームの形で表面に出たりすることがあ

る。

一方、通常の判断能力が低下している認知症の利用者は妄想の症状があり、それが介護職

員や他の利用者などに向かうこともある。

また、お互いに原因不明のまま言い争ったりけんかざたになったりすることもある。

さらに、通常の判断能力を有している利用者が認知症の利用者に対してバカにしたり仲間

外れにしたりすることから生じるトラブルもある。

金銭貸借や男女問題や暴力行為などの問題も特に事業所外では起こりやすい。

介護事業者は利用者間の問題については一切関知しないようにしたいところであるが、内

容によっては責任を問われることもあるため、対応には十分注意する必要がある。

「こういうことへの対処って難しいよな、Sweetie」

「そうさ、Cherrie。でも、だからって難しいことを敬遠していては問題を解決できないばかりか、かえって問題を大きくしてしまうこともあるからね」

「そうか、だから頻繁に出てくることをまず整理してみんなで情報を共有し、そのうえで自分たちでどうしても対処できそうもないときは、これまた専門家に任せる、ってことだな」

「そうすべきだね」

「Sweetie、俺ってさあ...」

「“僕みたいに賢いだろ” だろ?」

「はあっ?」

⑧事業所内部問題

介護業界の離職率は他の業界平均より高い。離職の理由は労働環境(低賃金など)および

職場での人間関係がかなりの部分を占めている。一方、介護事業所は増加する傾向にある。

上記状況では介護職員の確保が困難になってしまう。

そこで、まず現状の介護職員に対し離職を防ぐ方法を構築する必要がある。

実際、離職率がかなり低い事業所もあるが、そこではしっかりした管理者のもとで内部で

のコミュニケーションを重視している。ストレスがたまる業務に対し、しっかりと耳を傾

けて問題点を一緒に理解し、それを一緒に解決する姿勢、そしてしっかりと管理していく

姿勢こそが、介護職員を定着させ安定運営・経営につながっていくものと思われる。

過当競争の時代に突入している介護業界において、社会福祉の枠の中で価格競争ができな

い以上、充実したサービス内容の提供により利用者から選ばれる事業所となる努力が必要

である。

「Sweetie、“介護職員が利用者に暴力をふるって逮捕” とかのニュースがあると、そこの責任者は “そのようなことはまったく知りませんでした” 何て説明したりするけどさあ、そういう暴力をふるう職員がいるってことは事業所内部では本当は以前からある程度分かってるんじゃねえの?」

「いつもそうだとは限らないけどね、Cherrie。

でもね、現状では介護職員が不足していることは事実なんだ。だから、人員不足解消のためにも少しくらい問題があるかもしれない職員を簡単にやめさせられない事情もあるってことだよね」

「そっか。じゃあ、いいか悪いかは別にして、やっぱり根本的解決が必要なんだな、うん」

「そう。何とかしてほしいよね」

(16)シニア世代の恋愛

パートナーを求めるシニア世代が増えている。それは基本的に寂しいから。

3世代同居が多かった時代の常に家族に囲まれて生活していた時と比べ、配偶者に先立

たれた途端に孤独感を覚える人も多い。

だからこそ、孤独で寂しい気持ちを癒やし安らぎを与えてくれるであろうパートナーを

望むことになる。

孤独になればなるほど死への不安が高まる高齢者だからこそ、たとえ手を握るだけでも

肌の温もりを直接感じ安心できる状況を切に求めることになる。

人間としての安心や信頼を生む基本的要素はスキンシップであり、乳幼児はもちろん、

高齢者でも同様に心地よい安心感が得られる。

年齢を重ねても成人期の性格はそう変わらないものであり、自分にとり感じのよい異性

に好意を抱くのは年齢に関係なく当然のことである。

そしてその出会いの場は男女が集まるところはどこでもあり得る。

介護事業所しかり。

若い介護職員に対するあこがれは恋愛とは少し異なるかもしれないが、若いかっこい

い(かわいい)人が担当者になれば利用者もより元気が出てくる傾向がある。

これもまさに、自分にとり感じのよい異性に好意を抱くのは年齢に関係ないことの表れ

である。

また、身だしなみを気にするのも同様であり、よいことである。

「Sweetie、横文字にも強(つえ)え俺様だけど、“パ-トナー” ってどう解釈したらいいんだ。仲間、共同経営者、配偶者、ダンスの相手とか、ここではどれに当たるんだ、いったい?」

「そうだね、Cherrie。まずパートナーって、一緒に何かやる間柄っていうイメージがあるんだ。だからビジネスパートナーとかはよく聞くよね。

君の質問に対しては、そうだなあ、結婚という枠の中にはないけど、お互いが好きで時間と空間を共有したい相手、っていう感じかな」

「そうか。じゃあ、これからの生涯をともにしたいくらいの間柄、ってわけか」

「そんな気持ちを持ってくれたらこれからの生活に張りがあっていいよね」

「人間、好んで老いるわけじゃあねえけど、その時その時で人間本来の感情を持ち続けることができればいいよな。肉体的には老いてきても、精神的には老いねえもんだぜ」

「そうだよね」

「それと、身だしなみもそうだよな。聞いた話だけど、朝起きて充電式カミソリでひげをそってたら半分で止まっちまったらしいんだ、充電不足で。それで “今は恥ずかしくって誰とも会いたくねえ” だってさ」

「一般的には、本人が気にするほど他人は気にしていないようだけどね」

「でもさあ、物忘れがひどくて、まゆ毛を半分そっちまったんじゃあなくってよかったぜ」

「それは...」

一日は24時間。それは単純に与えられるものではない。

若い時は仕事に追われ、休みも返上し、“忙しい、忙しい”毎日。

年を重ねると時間を持て余し、流されて一日が終わる。

しかし、そうではない。時間は自ら創り出すものである。

自己の瞳に直接映る空間、それは限られている。

今住んでいる社会、過去の社会、未来の社会、地元地域、日本全国、世界、宇宙...。

今、我々は時間的には長~~い歴史の中のほんの一点にもならない。

今、我々は空間的には限りなく続く宇宙のほんの一点にもならない。

しかしそこで確実に生命の息吹を上げている。

今いるところ、そこが人生の舞台、時間も空間も自由に創り出せる場所。

それが積もって歴史になる。

それが積もって宇宙になる。

はるか太古の昔より時はゆっくり確実に流れている。終えんはない。

(17)双方の認識努力

人は誰でも他人に知られたくない過去のことなどはたくさんある。それは生きている証拠

である。それを別にわざわざ他人に話す必要もない。

しかし、放っておいたら後で大変なことになる可能性のあるようなことであればすぐに対

処すべきであり、“隠しておけばいつか何とかなるだろう”ではいけない。

介護においても同様、人的ミスはできるだけ避けるよう心掛けても完全に無くなるわけで

はない。起こってしまったら適時適切な対応が必要である。上司に怒られるから、大した

ことではないと思ったから、などと自己で都合のよいように考えてはいけない。

人は複数集まれば複数の良い考えが浮かんでくるものである。

とにかく誠意ある対応が必要である。

「Sweetie、このことはさあ、介護する側の職員の上司も “人はそもそも精密機械ではないのでミスは当然あるし、あって当たり前” ってえことを頭に入れたうえで善意ある対処をすることが必要だよな。

ミスをしただけで理由も聞かねえで怒るだけじゃあなくってさ」

「そうだよね、Cherrie。それに介護される側も、介護はいかに大変であるのかを少しでも考えてもらえたらありがたいよね」

(18)法制度の整備に向けて

介護サービス利用者などにとっても、介護サービス提供者などにとっても、ともに生き生

きと安心して生活できる社会制度の充実が必要である。

それには、法制度を作成するに当たり、実態に合った対応が望まれる。ただただ机上の理

論のみではうまく機能するはずがない。

例えば、ホームヘルパーは現状では与えられたサービスの範囲内でのみしか対応できない

ため、要支援の母親のためのホームヘルパーであれば、隣で寝ている要介護の父親のベッ

ド周辺の掃除をしてやってはいけない。それはサービス範囲外の対象者への行為だから。

分からなくもないが本当にこれでよいのか?

また、適切な対応をしてくれる外国人介護職員であれば、担当者の人材不足解消にもなり

歓迎される。

よって、実態に合った法整備が早急に望まれる。

 

「Sweetie、俺、聞いたことがあるんだ。介護職員に中国人がいるからって理由だけでその介護事業所に入居させるのをためらう人もいるんだってさ。ひでえもんだぜ、まったく。だってよぉ、ほんとにいいサービスを提供してくれる優秀な中国人もたくさんいるし、逆に手抜きばっかりしてる日本人だっているんだぜ」

「何でもそうだけど、一度悪いイメージを持ってしまうとなかなか修正できないのも人間なんだよね。それにたったひとりが問題を起こしただけでその関連者全員が悪者扱いされるってこともあるし。

偏見を持つことなく、良いものは良いと素直に認めるべきだよ」

さらに、介護費用が急激に膨張している。例えば...

・自己負担が安いため、ホームヘルパーを家政婦代わりに使用しているケースもかなり多

い。民間の家事代行サービスと比べ格段に安いからである。

しかし、これでは自立支援という本来の目的から逸脱してしまっている。

・介護保険適用外の施設サービス運営会社が、保険適用対象となる自社系列の在宅サービ

スを頻繁に利用させるケースも急増している。

・介護保険運用主体である市町村には、原則としてひとたび認められたケアプランなどを

精査し直し修正を要求する権限はない。よって、過剰といえるくらいのサービスを提供

していても、それに対応できない。

「おい、Sweetie、介護保険っていろんな問題があるけどさあ、今はまさに “まあ、問題は先送りしときゃあ、後で何とかなるだろう” なんてのん気なことを言ってられねえ時にきてるんだろ?」

「そう、まさにそうなんだよ、Cherrie。介護保険だけではカバーしきれなくなりそうだし。早急な対策が必要だよね」

「じゃあ、特別専任のCherrie総理大臣に任せてもらえねえか。妙案を考えるからさあ」

「Cherrie掃除大臣か、いいねえ。いろいろな問題を片っ端からきれいに掃除して片付けていってくれるんだろ?」

「あのねえ...しまいにゃあ怒るぜ」

「きゃ~っ、その怒った顔って超かっこいい~っ」

「“そっ、そうかい、そんなにかっこいいかい”、って、そんなおダテには乗らねえからな」

「その割には照れてない?」

「えっ...わかる? やっぱり! えへへ」

(19)介護の効率化に向けて

医療機関や介護機関などは外部からは分かりにくい閉ざされた業界であると言われるこ

とがある。

そこで、介護に関しては単独対応ではなく、合法的に垣根を越えた緊密な連携をすること

により、社会福祉の大きな枠組みのひとつである介護に関し、その効率をより高めること

ができるのではないかと思われる。

「Sweetie、俺よくわかんねえんだけどさぁ、病院経営や介護経営って簡単じゃあねえんだろ?」

「もちろんさ、Cherrie。もっともどの業界でもそうだけど、自分のとこだけやっているわけじゃあないから、競争があって大変だよ。

特に介護経営などは、競争ももちろんあるけど、何といっても一般企業とは違って社会奉仕的な意味合いが強いからね。でも、でもね、経営の結果として利益が出なければそれを継続することができないんだ」

「そりゃそうだ。“え~っ、皆さんのやっている仕事は社会への奉仕だから、担当者の皆さんには給料は払えませんが、細々と水でも飲んで我慢してくださいね。そこのところよろしく” なんてあり得ねえぜ!」

「君の言うことは極端だけど、でもそうだよね。

だから、組織にとり限られた人材などの資産をどうやって効率的・効果的に運用していくか、それが大切になってくるんだ」

「“病院、介護事業所、薬局などの閉ざされた組織による各々の単独経営に対する効率性の問題への早期改善策” ってえところかな」

「そうだね。それには各組織の垣根を越えたサービスを一体的・効率的に提供する必要があるよね」

「まったくその通り。お前もたま~にはいいこと言うぜ。

でもさあ、それは理想論だけど、じゃあ実際には垣根を越えて誰が上からまとめ役をしたらいいか、それも必要なんじゃあねえの」

「そうなんだ。そこで登場するのが実際の経営モデルなんだよ。つまりね、公的サービスの提供者は効率的経営に関しては経験的にまだまだじゃあないかなって思うんだ。だから、民間企業の経営モデルや技術を導入しながら公的サービスの担い手との連携によって、お互いがうまく機能していってくれればいいんだけどね」

「そうか、経営のプロの民間企業が中心になって各専門分野を一体としてうまくまとめていってくれりゃあ、サービスを受ける側としても都合がいいよな。

おっと、だからって1円でも利益を多く出そうとしてサービスの質が低下するようじゃあダメだぜ」

「そう、本末転倒だよ。だからサービスを提供される側は十分満足のいくサービスが受けられ、サービスを提供する側も質の高いサービスをすることにより十分納得のいく対価が受けられるような制度作りが重要になってくるよね」

「これで社会福祉の効率が高められればいうことねえんだけどな。

しかし、お前もたま~~にはいいこと言うぜ、2回も続けて」

「それって僕を褒めてるの?」

「解釈は十人十色さ」

六、最後に

2025年には3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となるようであり、今後はます

ます介護を要する人が増加する傾向にある。

そこで現状の各種問題を検討しながら国は大きな法制度の改正として、今まで全国一律であ

った各種内容につき、2025年をめどに地域包括ケアシステムとしての構築を提案している。

これが実現すれば、今後、各市町村は地域の実情を考慮してより効率的・効果的なサービス

を提供することができるようになってくる。

介護事業所もそこで働く介護職員も、今後加熱する過当競争に対し努力ていかなければなら

ないが、利用者が安心して高品質のサービスの提供を受けられるよう、地域密着型の介護プ

ロフェッショナルとしての自覚を持ちそのスキルを十分に発揮していただき、高齢者が安心

して暮らせる社会を我々一般人も含めみんなで構築していければと切に願う次第である。

  

今は寿命も延び、以前より体が思うようにならないこともあるであろう。

それは今までいろいろな形で社会に貢献してきた反動である。

でも、これで一段落ではない。

まだまだ精神的には若者に負けない気力は十分にある。

それをみんなが認め合い、まだ隠れている才能を発掘してさらに伸ばしてやる、そんな世の

中になればいいのになあ...。

皆それぞれ、人生、最初で最後の経験である。

何度も人生があるわけではない。

失敗しても当たり前だ。

失敗からいろいろなことを学んでいけばいい。

いくつになっても人生は人生そのもの...。

自分がここまで大きくなったのはほかでもない、両親のおかげである。

よって、いつまでも感謝の気持ちを有し尊厳をもって接するべきである。

それに将来は自分も同様の立場になるのだから。

故郷はいいものである。想い出がぎっしり詰まっている。

瞳を閉じるとあのときの光景が鮮明に浮かんでくる。

一緒に遊んだ悪友たち、今はどうしているかなあ。

親戚のおじさんやおばさんも元気かなあ。

自分をここまで育ててくれた両親も元気に頑張っているかなあ。

そうだ、この週末ぶらっと故郷に帰ってみようか。

長生きして凝り固まった両親の肩の重みをもみほぐしてやろう...

 

 

(白石常介:台湾三田会顧問)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(完)

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