白石15 )介護と共に(2)・・・26号

      介 護 と と も に (2)

(安心して暮らせる社会へ)

白石 常介(81、商)

五、個別対応

(1) 介護における心がけ

介護に携わる介護従事者は確固たる信念のもと、専門職として守るべき倫理的価値観を身

につける必要がある。

価値観とは、目的達成のためにどのような行動をすべきであるのかという考え方である。

そこで介護従事者は、介護利用者一人ひとりの尊厳の保持、自立支援などのために良質で

適切なサービスを提供するために、知識や技術のみならずこの価値観を身につけなければ

ならない。

一方、そのためには介護従事者が喜んで働けるような環境の整備(人員数の充実、適切な

賃金の支給など)も必要になる。

また、介護に関する労働は、肉体労働、頭脳労働と並ぶ第三の労働形態である感情労働に

当てはまる。これは、自己の気持ちを押し殺し、相手に合わせた言葉や態度で対応する業

務であり、ストレスが相当たまりやすくなるため、周囲の者もそれを理解することが必要

である。

それとともに、介護従事者に任せきりではなく、家族自身もともに介護を支えていくこと

を自覚すべきである。

「Sweetie、介護はそれをする側も将来はされる側になるよなぁ。だったら介護をする人はさあ、介護をする時から介護をされる側の立場に立って対応することもけっこう大切なんだぜ。

だってさあ、自分で理解したくっても理解できなくなってしまって自分でもがっかりしてるのに、 “何だ、こんなことも分かんねえの? 情けねえ、あ~やだやだ” 何て言われたらそれこそ落ち込んじゃうもんな」

「そうだよね、Cherrie。本人が落ち込んでいるときにダメ押しされたらもっと落ち込んじゃうよね」

「だからさあ、たとえどんなことでもいいから褒めてやることから始めねえとな。人間ってちっちゃなことでも褒められるとうれしいもんだぜ。

でも俺様は例外的にいいとこがあり過ぎて困ってるから、いったいどこから褒めたらいいかわかんねえだろ。そうだろ、Sweetie?」

「そうだね。君はいったいどこに褒めるものがあるのかわからないからね、しっかり探さないと」

「おおっ、しっかり探してくれよ、 って、それは褒めてるのか?」

「もちろんだよ、Cherrie君...」

(2) 誰が介護をするか

   親の介護が必要な場合、法律では家族に扶養義務があるが、では家族の誰が介護をするか、

という規定はない。そこで、誰かひとりだけが精神的、肉体的、金銭的に苦しくならな

いよう、事前に家族で相談しておくべきである。

なお、遠距離介護とは、別居家族が要介護者の居宅に遠距離から通って行う介護形態であ

るが、このような状況の場合には、市町村の安否確認サービス(見守り、緊急通報、食事

配送等)などの便利なサービスもあるため、上手に利用した方がよい。

また、第三者の支援を受け全体的負担を軽減することも大切なことである。

もし悩んだら、市町村の担当窓口、地域包括支援センター、ケアマネジャーなどに相談

すべきである。

「“自分が長男なんだから親は絶対に自分が面倒を見なけりゃあ”、って思ってると大変なんだよな。もちろん責任感があるのはいいけど、でもそれだけじゃあ実際無理だぜ、Sweetie」

「そうだよね、Cherrie。責任感のある考え方はいいけど、そのために仕事をやめたりしたら経済的にも精神的にも大変なことになってしまうからね」

「それは周りの人の影響も多分にあるんだぜ。“長男なんだから親の面倒を見るのは当然だろ” 何て思われちゃってさ」

「その辺は考え直さないとね。“長男は家を継ぐのは当たり前” の時代ではなくなってきているし」

「これからもっともっと大変になるんだろ。だったらみんなで支援しなけりゃあ潰れちまうぜ」

「家族みんなでできることを手分けしてやらないとね、外部への依頼も含めて」

「じゃあ俺様のできることは、例えば要介護者が誰かからもらったおせんべいをしょうがねえから代わりに食べてやることだな」

「しょうがないから?」

「そうさ。食べ過ぎてのどに詰まらせたら大変だろ。何事も要介護者の立場で考えてやらねえとな」

「えっ、でも、おせんべいはおもちとは違うよ」

「いや、原料は同じ米だから」

「...」

(3) 介護離職

現状、親の介護を理由にこれまでのように働くことができなくなり、結果として介護離職

をする人が増加し社会問題になっている。

もし介護離職により仕事から離れる期間が長くなると、介護不要になったときに再就職を

したくても厳しい現実が待っている。また、介護離職は介護者の生涯賃金を下げること

にもなり、介護生活終了後は自己の老後への金銭的不安も残る結果となってしまう。

なお、介護休業制度もある。介護休業法では要介護状態の家族ひとりにつき通算93日の

休業を申請することができる。

しかし、現実問題として日本の企業組織においては慣習的に介護休業制度などはなかな

か利用できず、結果として介護離職や転職をせざるを得ない人も多い。

介護離職は社会的損失にもなるため、介護休業制度などをうまく利用できるよう、企業側

の制度作りや働く側の意識改革により社会的な理解を深めていくことが大切である。

「俺、聞いたことあるぜ。例えば “育休” 育児休暇さ。“赤ちゃんが生まれたから規定により育児休暇を取らせてもらいま~す” なんて言ったら “こんなに忙しいのに、お前、何考えてるんだ。だったら明日からもう会社に来なくていいよ、つまり、クビ!” ってさ」

「そうだね。日本はまだまだそんな悪習があるんだよね。今の例では、“部下が育児休暇申請→上司自身の業務に悪影響→業績不振→上司自身の評価低下...だから上司自身のために部下を休ませない” なんだよね」

「結局、自分がかわいいから、自分が出世できれば他人はどうなってもいい、会社のためにってカッコいいこと言っても結局は自己中心で自分のために行動する、ってことなんだよな。介護休業制度だってただのお飾りじゃあ意味ねえぜ」

「みんなが皆そうではないと思うけど、多分にあるよね、そういうことは」

「いっちょう日本の社会に強烈な刺激を与えてやろうぜ」

「いいけど、どうやって...うわっ、これ? 強~烈なにおい...」

「わかった? 強烈な刺激だろ!」

(4)介護うつ

  在宅介護での精神的・心理的苦労から“介護うつ”に陥る人が多い。

日本人の10人に1人は“うつ病”を発症するといわれるが、介護者の場合は4人に1人

が介護うつ状態であるといわれている。

介護うつにならないためにも、できるだけ介護は家族などで分担するようにし、身近に

相談できる人がいない場合には地域包括支援センターなどに相談を持って行くようにし

てひとりに介護の負担が集中しないよう考慮すべきである。

「Sweetie、 俺は “つう” なら知ってるけど “食通”とかさ。でも 介護うつの “うつ” って何だ?」

「ごく簡単に言うと “心が晴れ晴れしないこと” かな。

特に介護をしているとね、心身の負担がかなり大きくなっていくんだよ。その結果疲れが蓄積していってうつ病になってしまう、これが介護うつなんだ」

「そうか、大変なんだな。でもさあ、介護うつになりやすい人とそうでない人っているんだろ?」

「もちろん。“責任感が強い、まじめで几帳面、完璧主義” の人は介護うつになりやすいようだね。

ということは、君はまず大丈夫だ、三無い主義のようだから」

「じゃあ俺は大丈夫なんだな、やれやれ...って、ちょっと待った!それって褒めてるのか、けなしてるのか?」

「まあまあ、それは横に置いといて」

「まあいいや、お前を相手にしてもたいしたことねえからな。

それよりさあ、介護うつって具体的にはどんな症状なんだ?」

「うん、本人が気付かないうちに進んでしまうようだけど、食欲不振、睡眠障害、疲労・倦怠感、不安感、焦燥感、ゆううつ感などの症状がほぼ一日中見られて、それが少し長く続くようだと介護うつを疑った方がいいみたいだね」

「少しずつわかってきたぞ。ってえことはだ、その原因がわかりゃあ対処もできるってことだな。

原因はたぶん、介護してやっても感謝のひと言もなかったり、逆にののしられたり、症状が改善しなかったりして虚しさば~っかりつのる精神的ストレスだろ、体を支えたり入浴の手伝いなどをしたりするときの肉体的負担だろ、仕事との両立が難しくなることによる経済的負担だろ、それと自分ひとりが頑張らなきゃあって思い詰める結果の孤独感だろ。しまいにゃあ心身ともに限界を超えて燃え尽きてしまわなけりゃいいんだけど、ほんとに心配だぜ」

「その通りだよ。もし介護うつになってしまったら、ショートステイを利用しての休養とか、精神療法とか薬物療法とかの対処・治療方法もあるけど、でもそうならないように事前に予防することが大切だよね」

「かなり分かってきた。であればだ、俺様の総合的客観的精鋭的天才的予防対処法は、まず “自分ひとりっきりでやらなければ” と思わないこと、ストレスがたまってきたらそれを自覚して発散すること、悩み始めたら誰かに相談すること、それにうまく介護のサービスを利用すること、だな」

「さすが天災的発想、まいりました。そうなんだよね、まずは自分ひとりで頑張ろうとしないことだよ。

介護うつは介護をする人なら誰でもかかる可能性があるんだ。だから自分は大丈夫だなんて思わないで、助けが必要なときは我慢しないことだよ。何たってまず本人が心身ともに健康でなければ何もできないもんね」

確かに、何事も無理をしようとするとどこからともなくほころびが生じてしまう。そしてひとたびそれが生じると知らないうちに大きく深くなってしまい、気付いた時には大変な状況に陥っていることも多々ある。

くどいようであるが、“自分が自分が”と思わず、迷ったら、困ったら、まずは誰かに相談してみるべきである。

「Sweetie、俺たちの主人は毎月日本に行くんだよな、両親の介護のために」

「それだけじゃあないけどね、Cherrie。でも海外に住んでいて大変なのは確かだよ」

「でもいつか言ってたぜ。長男だし、それ以上に四半世紀以上海外赴任で何ひとつ親孝行ができなかったから、今しなければ後で必ず後悔するってさ。それにいっつも仕事で忙しいようだけど、だから今、何を最優先すべきか、いつもそれを考えながら行動していて、その結果がまず今の介護なんだってさ」

「でも、でもね、もし主人自らが倒れたらそれこそ大変なことになっちゃうよ。そっちの方も心配で」

「あまい!俺様を見てみろよ。何があってもいいようにいいように考えるから、ストレスのスの字もねえだろ。主人はどっちかっていうと俺様似だからな。間違ってもお前似じゃあねえぜ」

「君に似ていたら世の中大変なことになっちゃうけど、まあどっちかっていうとそうかな」

「でも、まあ確かに無理はしねえでほしいな。だって、そうなっちまったら俺たちどうやって食べていくんだ? “哀れな哀れな私どもにお恵みを。あっ、それじゃあなくってこっちのおいしい霜降りのお肉の方をもっと...”」

「霜降りじゃあなくって尻尾振り振りで頼んでみたら少しは憐れんでくれるかもね」

「まあ、実際食べ物のことは置いといて、くれぐれも無理はしねえように、俺からも頼んでみるぜ」

「そうだね。倒れてしまったらそれこそ介護するどころじゃあないから。まずは本人の健康な体が一番だものね」

   

     尻尾を振るどころか...

(5)介護難民

   介護難民とは、介護を要するが介護事業者でも在宅でも適切な介護を受けられない人をい

う。

介護難民とならないために普段からできるだけ以下のことにも注意すべきである。

・健康維持(生活機能向上)

・環境整備(家族で支援)

・お金(準備)

「年を取るとさあ、将来のために資金の準備が必要になったり、周囲の環境整備が必要なのはわかる、うん。だけど一番重要なのは何てったって健康だよな」

「そうだね。まずは健康でいられることだよ」

「だろ? だから俺様はまず食べることさ。雨が降ろうが槍が降ろうが、何があってもまずはうまいもんを目いっぱい食べること、これだな」

「でも、何でもお腹いっぱい食べればいいってもんじゃあないんだよ、機能向上のためにも...」

「いや、昨日(きのう)向上しなくたって今日向上すればいいんだ。過去は過去。今が一番大事なのさ」

「さすが、Cherrie。だから特に精神的機能は100点なんだよ、いいことしか考えないから」

「当然だろ、Sweetie。嫌なことばっか考えてたらそれだけで即、病気になっちまうぜ」

「まあね、君ほどではなくても...」

(6)老人ホームの種類

老人ホームとは、一般的に要介護認定を受け、かつ、自立生活が困難な高齢者が入所する

施設を指し、以下の老人福祉施設と有料老人ホームがある。

・公的施設:老人福祉施設

・長 所:利用料金安価。入居一時金不要。要介護度が高くても入居可。

・短 所:人気集中により入居難易度が高い。多床室(相部屋)が多い。

・具体例:(特別)養護老人ホームなど。

・民間施設:有料老人ホーム

・長 所:選択肢が多く入居難易度が低い。設備・サービスが充実。

・短 所:利用料金高価。初期費用(入居一時金など)がかかる。

要介護度が高いと割高。

・具体例:介護付有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、健康型有料老人ホーム、

サービス付高齢者向け住宅、シルバーハウジング、グループホーム、

ケアハウスなど。

なお、施設入居後の各種トラブルがあるため、契約内容を事前に確認しておく必要がある。

例えば金銭トラブル(月額費用に消耗品代が含まれていない、入浴回数増加による別途サ

ービス代追加、入居一時金の退去時に返還されない部分、など)、退去に関するトラブル

(高度な医療対応が必要、認知症による問題行動あり、など)、提供サービスに関するト

ラブル(レクリエーション回数、入浴回数、など)、などがある。

「Sweetie、老人ホームへの入所に年齢制限はあるのか?」

「多くの施設では60歳以上とか65歳以上とかの制限はあるようだけど。もちろん例外規定もあるよ」

「例えば?」

「そうだね...自分が天才だと思っていたり、食いしん坊だったり、超自信家だったり、え~と...」

「それって、もしかして名前の最初に “Che” がついたりとか?」

「そう、よくわかったね」

「それって俺様じゃん!」

「ピンポ~ン」

「あのねえ...まあいいや、言いたいやつには好きなように言わせとけば。

ところでさぁ、レクリエーションなんかいいよなあ。カラオケを使ったりもするんだろ?」

「いろいろね。だってその目的はみんなで楽しんでもらったり、仲良く会話してもらったり、得意な歌を歌って自信をもってもらったり、いわゆる心の閉じこもりからの解放かな」

「歌なんかいいなあ、自分で好きな歌を歌えるからな。

♪♪ “逃~げ~たぁ女~房にゃ お金はな~い~が~っ”、“街の明かりが とてもきれいね 横浜~っ 隣は横~須賀~っ”、“見上~げて~ごらん~っ 夜の~星~を~っ ず~っと~見上~げて~っ、首が~回~んね~っ”、ってか。ああすっきりした」

「“マイペース” っていい言葉だね。君を見ているとつくづくそう思うよ」

「だろ、だろ!」

   

    超マイペース型のCherrie君

(7)介護事業所の選び方

利用する事業所が利用者に合っているかどうか、それは一概に言えないが、利用し始めて

から「こんなはずではなかった」と後悔しないよう、できる限り事前の調査は必要である。

介護事業所の情報収集(市町村の窓口などで)→ 資料などの具体的情報を基に検討、で

きれば見学に行き情報内容を確認(入居条件、サービス内容、看護・医療・リハビリ体制、

食事内容、イベントなどや、可能であれば入居体験も)

 

「実際そこに行ったからってすべてが分かるわけじゃあねえけど、ある程度の雰囲気は分かるんだよな」

「そうだね、ある程度は。資料だけを見て決めるよりいいよね。直接質問もできるし」

「俺様なら絶対、絶対、行ってみてチェックするぜ。特に...」

「待った!君のチェック目的は言わなくてもいいよ、十分に分かっているから」

「あ~ら、そうっ、Sweetie君、わかるのぉ?」

「今までの君の言動を考えればね。“奇麗なケア...”」

「ピンポン、ピンポン、ピンポ~~ン」

   

(8)介護用品の選択

介護用品は原則として介護保険の対象であり、自己負担割合は1割などである。

しかし、要介護度の程度によっては介護保険の適用がないものもあり、また、介護用

品によっては介護保険が適用されるのは購入のみのものやレンタルのみのものもある。

(例:介護用ベッドや車いすはレンタルのみ保険対象。購入の場合は全額自己負担)

なお、購入の場合の購入限度額は年10万円(毎年4月に更新)であり、レンタルの場合

には要介護度に応じた支給限度額範囲内であれば利用でき、また、要介護度により介護用

品が決められている。

 

「Sweetie、同じもんでも購入するかレンタルするか迷うこともあるよな」

「当然だよ、Cherrie。例えば標準的な自走用の車いすだとね、購入すると20,000円前後みたいなんだ。一方、レンタルすると毎月6,000円前後だからその1割負担で600円前後だよね。ということは3年レンタルすると20,000円を超えるから、それ以上使用する場合には単純に計算すれば最初から購入した方が得だよ。でもね...」

「あっ、でもさあ、例えば1年経ったら介護度が進行して自走用じゃあ無理になって電動用の車いすを使わなけりゃあならなくなったりしたらまた購入し直すんだろ。だったらもっと大変だぜ。最初からレンタルで借りときゃあレンタルの対象品を変えればいいだけだ。

単純に金額だけで比較するんじゃあなくって俺様のように総合的客観的合理的直観的繊細的観点より物事を理論的に観察しなけりゃあだめなんだ、わかった?」

「あのねえ...だから “でもね...” って続けて言おうとしたら君が横やりを入れたんだよ」

「お~いっ、横山やり夫君、通称、“横やり君” 、横から邪魔したらいけないよ...デへへ」

「...」

(9)介護老人保健施設(老健)の特徴

介護老人保健施設、通称“老健”は、公的運営の入所型介護施設のひとつであり、医療ケ

アとリハビリが充実しており、病院を退院後のリハビリ施設としての利用も可能である。

ちなみに、リハビリ専門員の配置が義務付けられている公的介護施設はこの老健のみであ

り、また、デイサービス、デイケアやショートステイなどを併設しているところもある。

利用対象者は原則として入院治療する必要はないがリハビリテーションや看護・介護を要

する要介護者であり、入居一時金はなく、入居期間は3~6ヵ月程度である。

「入居ってさあ、そこで生活するってことだろ。てえことは自分の部屋があるんだよなぁ」

「自分だけのひとり部屋がある人もいれば、ひとつの部屋で一緒に住む人がいることもあるし。

居室は一般的には従来型個室、多床室、ユニット型個室、ユニット型純個室などがあって、それぞれ利用料金が異なるし、それに寂しくなるから元々ひとりでは住みたくないっていう人もいるしね」

「俺様はひとり部屋だな。だってさあ、好きな時に好きなテレビを独り占めして見られるし、好きな物も誰にもやらなくてひとりで好きなときにパクッて食べられるし、最高じゃあねえの」

「それはできません(キッパリ)!

あのね、ここには君みたいにのんびり遊びに来るわけじゃあないんだ。日常生活を取り戻せるよう目的をもって入所するんだ。だから、好きな時間に好きなことができるわけないよ。みんなそれぞれが頑張っているんだから。それに消灯時間もあるし」

「な~んだ、じゃあ入るのや~めた」

「誰でも入れるわけじゃあないよ、特に君みたいな人(?)は」

「じゃあ、名前に“Swee” が付くのは?」

「もちろん大歓迎さ、“Che” じゃあないからね」

「チェ!」

(10)ケアマネジャー

ケアマネジャーとは、正式名称を「介護支援専門員」といい、2000年に介護保険制度が

導入されたときに誕生した資格であり、主に要介護者やその家族からの相談にのり、利用

者の希望を聞き適切な介護サービスなどが受けられるようケアプランなどを作成し、関係

者との連絡や調整を行ったりしている。

この資格は、看護師、介護福祉士、社会福祉士、栄養士などの国家資格を有し、実務経験

が5年以上の人や介護などの実務経験が5~10年以上ある人などが、各都道府県が管轄し

ている介護支援専門員実務研修受講試験に合格し、87時間の研修を受けることで取得で

きる。

なお、ケアマネジャーはホームヘルパーが行うような要介護者や要支援者への身体介護な

どや生活支援は行ってはいけない。

例えば排せつ介護、食事介護、入浴介護などの身体介護や、住居の掃除、洗濯、買いもの、

食事の用意などの生活支援は行えない。

“あ~んっ、はい、お口を大きく開けて、そうそう。Cherrie君って食べるときもかっこいいわねえ、おネエさん大好きよ”、“そっ、そうかい。そんなにかっこいいかい、俺様って。照れるなぁ、もて過ぎちゃって”

「Cherrie、ねえCherrieってばあ...口を大きく開けてよだれを垂らして何やらぶつぶつ言いながら眠っててどうしたの」

「う~んっ...あっ、えっ...何か気持ちよかったんだけど、夢?」

「そうみたい。しきりに寝言を言ってたし」

「あっ、思い出した。家でケアマネジャーのおネエさんに超おいしそうな料理を食べさせてもらってるところだったんだ。まだ歯の奥に少し残ってねえかなあ」

「でも、現実にはケアマネジャーの人はそういうことはできないんだよ」

「何で? だってさあ、わざわざ家に来て要介護者などの相談にも乗ってくれるんだろ? だったら “これが必要なんだけど無くなっちゃったからちょっと買ってきてくれない” とか、“お腹がすいちゃったんでそこの材料を使ってちょっと料理してくれない” とか、ちょこっとくれえ手伝ってくれてもいいんじゃあねえの」

「それが規則ではできないんだ」

「Sweetieって冷てえんだな。こっちが困ってるんだからさあ、規則、規則って言わねえでちょこっとやってくれてもいいじゃん。誰も見てねえんだからさ、そうだろ」

「見てなければいいってもんじゃあないんだよ。そうしないと仕事が限りなく増えちゃって大変なんだ。そうでなくっても対応が多すぎて体が悲鳴を上げているんだから」

「まあ、わからねえこともねえけどさ。だけど実際 “水が飲みたいんで持ってきて” って依頼されても“いいえ、これは私がやってはいけないことなのでできません” って言える? のどが渇いてハアハアいっててもかい?」

「何でもそうだけどその境界って難しいよね。それに規則にがんじがらめになって現実とは程遠い対応を強いられることもあるし」

「そうだ、そうだ。だから規則を作る人は快適な部屋の机の上で頭だけ動かしてるんじゃあなくってさあ、実際に自分の足で汗水流して現場を歩いて、どんな問題があるのか、いかに大変なのか、それを自分の体全体で感じ取らなきゃあいけねえんだぜ」

「その通りだよ。でも現実はそこまでまだまだだね、残念だけどさ」

ケアマネジャーは要介護者などの生活支援に重要な影響を与えることになるが、それぞれ

個性もあり“合う、合わない”も当然あるため、利用者に最適となるようなケアマネジャ

ーの探し方も知っておくべきである。例えば以下のポイントは大切である。

・ヒアリング能力

利用者側の要望を丁寧に聞き取り、それに応えるケアプランなどを作成できるか。

・中立保持

利用者とケアマネジャー所属事業所との間に立って中立的対応ができるか。

・情報とアイデアと問題解決能力

介護知識は当然であるが、そのうえで最新情報とアイデアに富んでいるか。

また、どのようなプランを提案し問題を解決していくかという問題解決能力を有して

いるか。

・フットワークが軽い

連絡が取りやすく、早急な対応をしてくれるか。

・思いやり

要介護者への優しい思いやりがあるか。

なお、ケアマネジャーの立場からも実際に多くの悩みがある。

・賃金が低く生活がぎりぎりの状態のケアマネジャーも少なくない。

・ケアマネジャーとしての業務範囲が明確でない。

・兼務業務が多過ぎ本来的な業務の時間が取りづらい。

・残業が多く休みが取れない。

・自己の力量に不安がある。

・担当者数が多くじっくりと問題に向き合うことが難しい。

・介護保険給付申請などの煩雑な事務作業に時間が掛かる。

・制度が頻繁に変わり対応に時間と労力が必要となる。

・どこまでやってあげたらいいのかの境界線で悩む。

・介護分野と医療分野の板挟みになることもある。

・ケアマネジャーの仕事を続けられないと思うことがある人は全体の75%以上、など。

「Sweetie、俺さあ、実際に介護の現場でこんなことがあったって聞いたことがあるんだ」

「なんだい、Cherrie」

「簡単に言うと、思い過ごしによるものさ。

ある高齢者の夫婦がおりましたとさ。夫は以前皆から尊敬される職業に就いていたので、妻は夫に認知症の症状が出ても誰にも相談することができなかったんだと。

しかし妻自身も高齢で自宅での介護にもとうとう限界が来たため、思い切って相談所に駆け込んだんだとさ。

そしたら夫はあれよあれよという間に介護施設に入ることになり、入った途端に生き生きとした生活が送れるようになったんだと。

妻は夫が変なプライドを持っているんじゃあないかと思い込み、認知症であるのが知れ渡ることへの抵抗を心配をしていたんだけど、結果としてもっと早く対応していればよかったのに、と思ったんだとさ。めでたし、めでたし」

「そうなんだ。これはまさに問題をひとりで抱えないっていうことのよい例だよね」

「もうひとつ、これもあるんだ。こっちは簡単に言うと、介護分野と医療分野の間での板挟みさ。

ほんとは介護事業所に行ってそこに身を置けばそれだけでリハビリにもなると考え、1年もかけて本人を説得し、やっとそこに入る意思を表示した。しかし、その後の病院での定期健診で状況が何も分かっていない掛かりつけの医師に “そんなとこやめておけば” と言われたそのひと言でせっかく時間をかけた説得がまったくのむだになってしまった、っていう話さ」

「それはひどいよ。一般的に医師は社会的地位が高いので、その人の話がすべて正しいと思っちゃうんだよね」

「そうなんだ。以前にも言ったことがあるけど、“華々しい装いとは裏腹に、営利追求のみのやぶ医者”もいるからな」

「もちろんよいお医者さんもたくさんいるけど、いろいろだね」

なお、ケアマネジャーへの不満もあることは事実である。

・最適なケアプランなどを作成してもらっていないのではないか。

・介護保険料が高かったり十分なサービスが受けられないのは、ケアマネジャーの力不足

なのではないか。

一方、介護サービスなどに対する不満がケアマネジャーに集中してしまっているのも事実で

あり、それへの対応はまさに大変である。

(11)デイサービス、デイケア、ショートステイ

各説明は以下の通りである。

・デイサービス:通所介護

自立支援を目的としている介護事業所などで日常生活(食事、入浴など)の支援を受

ける。

・デイケア:通所リハビリテーション

医師の指導のもとでリハビリ施設にてリハビリ専門員についてリハビリを行う。

・ショートステイ:短期入所介護

一時的に在宅介護ができないときに介護事業所に短期入所しサービスを受ける。

一般的に数日から1週間程度。

「介護事業所に入所して生活機能がある程度回復してきた。“よ~しっ、じゃあもう自宅に戻って週に数回リハビリに通えばいいな”、なんて思ってさあ、デイケアに切り替えた途端、問題が起こったってことはある?」

「あるよ。例えばね、後で説明するけど老老介護では夫が施設から戻ってきて、さあ、また一緒に暮らせるね、って奥さんが安心した矢先、今度は奥さんの方が寝込んじゃったこともあるんだよ」

「えっ? だってさあ、長年連れ添ってきた人と一時期離れ離れになって寂しい思いをしてたんだろ。それが解消したんだから、どして? あまりにうれし過ぎて心(しん)の臓が止まっちまったとか? そうじゃあねえよなあ」

「おかしいだろ。実はね、戻ってきた夫には以前からあったんだけど、認知症が進行してたみたいなんだ。長い間個室にいたから、以前より会話も少なかったようだしね。

冬の寒い時に重度の肺炎にかかって最初は医療機関(病院)に数ヵ月入院し、退院後はまず筋肉などの機能を回復するために“老健”に入所してリハビリを行っていたんだ。本人がそこで頑張ったためある程度回復したので家に戻ってきたら、こんどは認知症の影響なのか、夜中に起き出して何だかわけのわからないことを言ったりするんだよ。そのたびに奥さんが目を覚まして対応してたので睡眠不足になり限界を超えてしまったんだね」

「そりゃあそうだ。何が大事かって、しっかり寝なけりゃあ何もできねえぜ。俺様だって超眠いときに超うまそうなものが目の前にあってもまず寝ちゃうな」

「君がそう言うなら説得力があるね」

「意味不明!」

「まあまあ。でね、それからは週に数回のデイケアに夫が行ったときは睡眠を取るようにしているんだけど、それでも大変らしいんだ。そこで、こういうときはどうしたらいいでしょうか、Cherrie君?

「ほんとに限界を感じたら何をするかわからねえからな。冷静さを失ってまずその苦しい状態から抜け出せればいいって思っちゃうぜ...えっ、てえことはだ、夫がしばらくいなけりゃあいいんだろ。でも長期間いなけりゃあやっぱり寂しいし不安だよな。...おおっ、そうだ。矛盾してるけどそれの解決策をどうするか、ここはCherrieケアマネ~ジャジャジャ~ンにお任せを。つまりショートステイだろ?」

「おっ、さすが。そうなんだ。ショートステイなら少なくても数日は夫は家を空けるから、その間は奥さんはゆ~っくり休めるものね」

「だけど、少なくとも数日って具体的にはどう決めるんだ。それに受け入れる介護事業所がなけりゃあ意味ねえぜ」

「だからそれを相談して決めるのがケアマネジャーなんだよ。ケアマネ~ジャジャジャ~ンでは難しいかもね」

「ジャジャジャ~ンの方が楽しそうでいいジャン」

「じゃあ、信頼性の問題は? 

特に、いつだったか、君が鏡に向かってお化粧してたことがあっただろ? あれを思い出してしまうと」

「...」

   

                                                  〈白石常介:台湾三田会顧問)

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(続)

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