野村7)福澤全集の牛歩研究 その7・・・31号

「福澤全集の牛歩研究、仕事、塾理系話題など、その第7話

                         野村 政直 (平成15、経)

2019年7月13日(土曜日)の午後5時から、曾根崎にある「がんこ曾根崎本店」にて、第一回諭吉倶楽部懇親会が開催され、貴重な出会いとなった。

家庭内では末娘が大学4年生での就活で希望通りの就職先が決まり、これまでの京都での学生生活から来春には東京京橋での設計事務所勤務となることが決まったので家でお祝いを持った。

さて話を本題に戻して今回は福澤諭吉全集の第3巻の60頁辺りの文明の起こりに関する先生の文章から入ってみたい。「国の文明は上政府より起こる可らず、下少民より生ず可らず、必ず其の中間より興て衆庶の向ふ所を示し、政府と並立ちて始めて成功を期す可きなり」とあった。蒸気機関のワットしかり、鉄道のスティーブンソンしかり、経済のアダムスミスしかりと述べている。この文明の西欧先進国での起こり方を良く研究して日本の近代化や文明開化が進んだので、日本の近代文明は先生の見解に沿ったものと言える。一方、今の中国の共産党による近代化は政府によるものなので、先生の見解とは異なっている。多額の政府支援で共産党が様々な技術革新に参加しているのはある意味近代化のルール違反とみると、それで世界の覇権を取ろうとする政策に対して米国はダメ出しをしているのは当然で、それが今の文明の衝突の様に思われる。人工頭脳開発しかり、電気自動車開発しかり、遺伝子治療しかり、通信機器しかり。特に通信機器類は軍事転用できるので、中国共産党の多額の投資が世界の文明の進歩において異常性や懸念を誘発しており、どう修正されるべきか、ハーウェイ問題からの米中関係の進展に関心が集まる。

頁70からの学問のすすめの七編では、国民の職分を論じている。「凡そ国民たる者は一人の身にして二か条の勤めあり」として、各国民は国に対しては客の勤めと、主人の勤めの2つがあると述べている。客の身分としては、一国の人民は国法を重んじ人間同等の趣意を忘る可らずと述べ、主人の身分としては、一国の人民は即ち政府なりと述べている。確かに政府に国政を委ねるとは言え、政府は人民の名代であり、主人としてしっかりと国政に参加していく勤めがあると述べている。国政に関わる政治問題は他人事と考えるのではなく、国法を守る客人であると共に、国政を監視し、意見を述べ、参画していく主人としての勤めがあるとの事。明治初期の知識人の気概と今の令和時代のインテリゲンチャの発言を見比べると、やはり明治人の気概は国を自ら守り育てるという、より自己責任の参加型であった感を覚える。新聞等で政府を批判しても、それならどう実行していくべきかの具体的な提案を出せていないし、議論できていない。人任せのルーズな状況で、その姿勢が世界レベルの会議で議論に勝てる人材を出していけない問題点や、外交力の弱さに繋がっているのではないか。初期教育から考え直すべき国としての改善ポイントの1つの様に思える。

第3巻の頁91からの学問のすすめの十編では、学問の旨として「人たるものは唯一身一家の衣食を給し以て自ら満足す可らず、人の天性には尚これよりも高き約束あるものなれば、人間交際の仲間に入り、其仲間たる身分を以て世のために勉る所なかる可らずとの趣意を述べたるなり」と記しています。単に食べていくために学問、学校を出るのではなく、良き仲間を得て世の中に役立つことをする為に大いに学ぶべきとの記述と理解した。全く同感で大学生活の意味が違ってくる。

頁102の学問のすすめの十二編では「学問の要は活用に在るのみ。活用なき学問は無学に等し」と述べています。多くの情報や知見を総合して、人との交わりや社会に対してどの様に活用するのか。そこに学問の値打ちや意味があると思う。今をときめく塾員で歴史学者の磯田道史氏は、福澤先生のこの記述を引用し、自分の古文解読力を活かして、日本の災害、特に津波事例を研究し、各地の先人の経験や戒め、反省を次の大地震への備えに必要と考え、本にして出版している。今後ともこの点を忘れずに、自分の興味ある分野での学問と社会活用を考えていきたい。時は少ないが。

話は今の仕事へと大きく変わるが、前回の牛歩研究シリーズの第六話では、自社の活動報告としてCSR (Corporate Social Responsibility) 報告書の状況を書いた。企業ではRCコードとして、環境保全や、安全防災や、製品・化学品安全や、地域・社会貢献の尺度を設定し、Responsible Careの参画度がその企業の社会貢献や、環境保全活動の評価につながっている。化学会社だと様々な化学物質の利用方法から軍事物質への転換の恐れがある化学物質、例えばフッ化物は、コンプライアンスへの該非判定を厳しく行って、決して軍事的に危ない国々へは輸出しない。またその懸念が少しでもある国はホワイト国ではなく、今回韓国はその懸念が北朝鮮に対してあるので、該非判定で審査の要る対象となった。これは技術のある国として世界に対して極めて妥当な政策と言える。隣国とは原則、仲良く付き合うべきだが、軍事転用の恐れがあるものなどは化学メーカーとして輸出出来ない。日本はこの様な面でも世界第一等の常識のある国なので、非常識を押し付けてくる、また国同士の約束を守らない国にはそれなりに対応すべきと考える。

塾の理系話題としては6月8日に矢上キャンパスで開催された医工連携シンポジウムの話題が興味を引いた。今は再生医療において医学と工学が連携する必要がある。例えば、iPS細胞を使った心筋梗塞治療では、臓器シートとして使える組織にiPS細胞から製造するのに、効率よく短期間に増殖させる必要がある。それには単に医学的な技術では無理で工学的な生産性が必要となっている。慶應大学は医学も工学も共に優れた研究者を持ち、その知識が連携するイノベーションに大いに貢献できる。京都大学では大多数の人に使える汎用性の高いiPS細胞の備蓄を進めているが、慶應大学ではそれらを商品化していく工学的な手技の育成を更に図って頂けたら将来皆が助かる。

(野村政直:医学博士・石原産業社長室・慶友三田会会長)

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