野村2)福澤諭吉全集の牛歩研究(2)・・・26号

「福澤諭吉全集の牛歩研究と、今の仕事と、塾の理系話題その2」

                       野村 政直(H15、経)

九州に向かう船中で、三田会関係者に諭吉全集の文章を読みこなすのは、骨が折れるでしょうと尋ねられ、どうして読み始めたことをご存知なのでしょうかと尋ね返したら、杉本さんの諭吉倶楽部の読者に入っているとお聞きし、本会の読者が広い事に少し驚くと共に、投稿する文章に更に一層、注意が必要だなと痛感しました。

先日東京であったとある三田会で、小泉信三元塾長に関するご講演を聞くことがありました。テニスでもご活躍され、有名な「練習は不可能を可能にす」のお話しや、今の天皇・皇后両陛下とのご関係なども塾関係者として、お聞きする事が出来、小泉先生のご業績と、幅広い交流に感銘を覚えると共に、三田会の素晴らしさを改めて教えて頂ける貴重な経験となりました。

小泉元塾長の足跡を研究されている方々は福澤先生に関する研究者と較べると少ないとのお話しもあり、福澤全集からの少しずつの研究照会を投稿することは、それらの碩学な先生方に対して、失礼にあたるかもと危惧を覚えますが、無理をせず肩肘張らずに分析して行こうと思っています。

その全集第一巻読後メモの前に、先日三田会の仲間と明治維新150年を記念して、山口県に2泊3日の船旅に出ましたので、その旅行記を少し書いてみたいと思います。これは慶友三田会の創立50周年を兼ねた企画旅行でもあり、総勢10名ほどの塾員による3月11-13日の大阪―門司間の船旅でした。極力安く、学生気分で旅をしようとのコンセプトの下、船は大きなカーフェリーでしたが、船室は2等室のカプセルホテル的な所で往復共によく寝る事が出来ました。ビールやワインやお酒を持ち込んでの楽しい食後を三田会で楽しみ、大阪南港を午後6時30分に出て、翌朝7時には北九州の新門司港に着きました。小型マイクロバスを配車し、関門海峡を通って下関に入り、第81代安徳天皇が葬られている赤間神社を参拝しました。武家社会は、壇ノ浦の合戦で源氏が平家を滅ぼして始まり、その馬関海峡で幕府や4か国連合と戦争をした長州と、力を合わせた薩摩による戊申戦争にて、終わったと言えるかと思います。その関門海峡トンネルは、凡そ1 kmのトンネルの中を国道2号線が走り、その真下を自転車や徒歩で通れたので、山口県と福岡県の県境を跨ぐ海底トンネル内の楽しい散歩となりました。赤間神社の横には、清国全権代表の李鴻章を迎えた日清戦争後の台湾割譲などを調印した建物(春帆楼)がそのまま保管されており、李鴻章と伊藤博文や陸奥宗光等との戦争後の激しい賠償交渉があった会議テーブル等を見てきました。清国11代皇帝の光緒帝を毒殺した西大后の戊戌の変法のきっかけは、光緒帝が紫禁城で内密に伊藤博文と会い、清国を日本の様に開国しようと目論んだからだとの説もあり、日本と中国の歴史が思い出される貴重な史跡を訪れることが出来ました。また長府の功山寺にも詣でることが出来、有名な奇兵隊の設立場所に建てられていた高杉晋作の騎馬像は、27歳の若さで結核により亡くなった維新の英雄を何時までも後世に思い出させる場所でした。この長府で購入できたスパークリング獺祭(360 ml)は、噂に違わない絶品で、購入して帰ったお酒好き仲間間では、いつでも話題にでる良いお土産となりました。

さて全集の第一巻分析のメモから5つほど書いてみたいと思います。1つ目は42頁にありました明治初期の日本の政治の難しさを述べた辺りからです。明治維新政府が抱えた難問は、元弘正平時の楠公の比ではないと書いています。その理由は南北朝時代の争いは国内紛争であったのに対して、明治政府初期の難問は海外列強に侵略される恐れがあり、それと戦いながら急ぎ開国して国力を高める必要に迫られていたので、日本開闢以来最大の国難な時勢と書いています。この時代に欧米に渡り実際に自分の眼で欧米の国力を見て帰国された福澤先生は日本国を慮りながら、政府の役職に就かず、大学教育に専心されました。その選択のお陰で、素晴らしい大学が日本で設立され、そこを卒業できた塾員としては、感謝しかありません。

第一巻291頁の収税法の紹介のなかで、英国の運上による税収を紹介されています。例えば犬1匹の税金が12シリング(24シリングで1ポンド)だったと書いています。また商売所得の利潤から1/25の家族税を国に納める制度の紹介を英国の実例から書いていて、この進んだ英国の税制度が明治政府の収入方法にも採用されていったのかなと読みました。372頁では、英国の小学校への投資や学校数の多さが、プロシヤやオランダと同等もしくはそれ以上の数と紹介。また英国の優れている更なる点として、その学校教育に関して、人を束縛せず、人々をしてその天稟才力を伸ばしむるに由て然るなりと紹介しています。英国の学校教育の本質を短時間で分析し、日本に紹介した功績は卓越したものであったと思います。

再び税金の話題に戻りますが、375-376頁において、1854年のヨーロッパの中で、英国の租税は最も多くて1年で5700万ポンドの税収と紹介。それでも英国民はその税で苦しんではいない。英国人の生活で活計に苦しむ原因は租税の苛酷ではなく、衣食の高価の為と紹介。そして、それは悪いことではなく、寧ろ国の幸と書いています。その理由は「衣食高価で活計に苦しめば、人民止むを得ずして工業に勤め、ついては新発明のことも有て、国益とあればなり。」と書いています。

また第一巻390頁では家族に関して「人間の交際は家族を以てもととす。男女室に居るは人の大倫なり。」「夫婦の配偶は人の幸を増し、人の交を厚くするものなり。固より天の然らしむる所にて人力に非ず。」と書かれ夫婦が1つ屋根の下で仲良く暮らす事は人力ではないと書いて居ます。

先日、別の三田会の集会で、北極旅行に行かれた元読売新聞の先輩のお話を伺う機会がありました。北極には砕氷船をもつロシアの不凍港から船で1週間かけて行くしかなく、北極熊の写真も拝見しました。北極熊は一日一頭のアザラシを餌にしていて、その肉を食べるのではなく、アザラシの油を主に摂取して活きているのだそうです。欧米を旅された時に肝心なポイントは何処かを良く見聞きされ、それを小まめにメモに取り西洋事情等を書かれ、一早く日本にそれらの情報を広めた福澤先生の業績は輝かしく、後からそれを読ませて頂く一塾員として、慧眼の至りと思います。北極点への旅もその旅行記を手配した会社の為に後日纏める約束で、旅行費が略半額(270万円)となったそうです。後輩の塾員も旅が上手で素晴らしいと思います。

今の仕事からの話題は、化学物質の安全性評価における発がん性について。喫煙とがんの発生には明確な相関関係がありますが、医薬品や農薬や一般化学物質の発がん性は、2年間に及ぶラットでの発がん性試験結果から判断されていて、その手間暇は膨大なリソースを要します。最近これを人工知能のモデル計算で出そうとの動きが活発で、過去のデータから化学構造式からの計算で発がん性を見極めようと言う動きが高まっています。動物愛護団体等からも実験動物数を減らす活動が強く、QSARと呼ばれるモデル計算が求められつつあります。

最後に大学からの話題として、慶應大学医学部では第二回医療ベンチャー大賞の発表があったと記事に出ています。社会人部門で優勝を勝ち取ったのは、「がん治療において革新をもたらす医療機器開発」と言うテーマに対して、「スマートフォンに接続してすべての眼科診療を可能にする革新的デバイス」を報告した慶大医学部の明田チームが勝ち取りました。発展途上国のような医療資源の乏しい所でも、遠隔治療が可能になりそうなアイデアと商品化で医療ベンチャー大賞に輝きました。

全集の第一巻が漸く読み終わり第二巻に入りました。少しずつ読み進めます。

(野村政直:医学博士・経営学修士・現 石原産業社長室・慶友三田会会長)

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